八汐の隠し事

淳さんは隠し事している。俺も隠し事しているからわかる。俺は臆病だから堪えているが、へたれだから堪えきれなくなると思う。

淳さんがずいぶん敬愛する室町、重信というペアのような、淳さんが憧れてくれるような男になりたいが、無理だ。淳さんがその人、自分のせいで俺に不幸でいられたくないだろう、と言った言葉が今頃引っ掛かるのだ。俺より不利な躰で、俺のせいで不幸でいるかもしれない。知らん振りで平気でいるのが淳さんを傷つけているんじゃないか。

いろいろ気を回して、親父に頼んで事務所の電話からうろ覚えの田舎町の町名と姓であの子の実家らしい番号を七つ探り当てた。小さい田舎町だから簡単だろうと思ったが、同姓が多いらしい。七軒、電話して○○さんいますか? あ、間違いました、と言って消していくんだ。

ここでまたいろいろ想像されて、電話が怖くなった。

誰が電話を取るか?

彼女がどんな境遇にあるか?

淳さんと図らずも出会ったように、あの町に行ってうろついていたらひょっこり本人に出会うってことはないだろうか?

小さい町だったらその方が確率が高いかもしれない。などと悩む自分に気が付いて自己嫌悪の繰り返しだ。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『フィレンツェの指輪』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。