淳の隠し事

冠省

ご両人は米大陸の地峡辺りを流れているそうで、僕を迷惑がられた。君は礼儀正しくて聞き分けがいい。僕も昔より分別が付いた。逢って話をするのが自然だろう。君に悪さをする気はない。電話をくれ給え。君の都合に合わせられる。

怱々

二通いっしょに転送されてきた。紳士というならこれほど赤裸々に物を言っていいのだろうか。父と重信さんは二人揃ってため息が出るくらいスマートだった。歳月でさらに瀟洒になった。威張らないから奥行きが測れない人が多いでしょうね、と葵が言っていた。

お母さん、今の二人、どう?

淳の胸に棲む母は答えない。わたしは今の方が好き。

どうしてお父さんに憧れて失敗したんだろうか?

先生の、そう、あの超俗の気配を纏っていた生方さんに、他愛なく憧れて?奥行きを測れなかった小娘は、所詮敵わなかったのだろうか?

しかもこんなおばさんになっちゃったわたしにがっかりしなかったなら可笑しいわ。でもひょっとすると本当に幸せそうで、そうだとすれば八汐くんがいるからで、羨ましかったのかしら?

あの人だって不幸だと言っていても、八汐くんほど悲しみを味わったことはないでしょうに。木枯らしの夜、二人でブロークバック・マウンテンやロレンス・オールウェイズを観て同じ場面でじんとしたり、カラヴァッジョを観て三十七年の劇的な人生に、わたしの平和な歳月では絵にならない……という感想を持ったり。

八汐くんはカラヴァッジョの弟子になりたかったって、書庫から画集を出してきて、当時貴族に悪評の写実を縷る縷る解説してくれたりする。弟子になったって根性なしだからすぐに叩き出されただろうけど。……生方先生だったらカラヴァッジョも病跡学で診るのでしょう。