第二話  東日本大震災物語

―― 三種の神器。

「鏡、剣、曲玉(まがたま)ですよね」

「正式には、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)だね」

「さすが教授」

「教授、ところでこの『三種の神器』は現在どこにあるんですか?」

「鏡は三重県・伊勢神宮、剣は愛知県・熱田神宮、曲玉は東京・皇居にあるんだよ」

「そこで教授の博学なところを見せてほしいんですが、『三種の神器』の昔々話を聞かせてくれませんか」

「おっほん……そうですか、それじゃ簡単に説明しましょう」

と、咳払いをして、背筋をまっすぐに伸ばし、ご高齢者には見えないお姿で説明が始まった。

「さっき話した天照大神の弟であるスサノオノミコトがあまりにも乱暴であったので、ビビった天照大神は『天の岩戸』というところに引きこもってしまったのね。

太陽神である天照大神がお隠れになり世界は闇となって、太陽が出ないため農作物が育たなくなりました。そこで困った多くの神々は相談をするために島根県の出雲の国に集まったのです。

そのため日本では出雲を除いて神々がいなくなってしまい、それで10月を神無月(かんなづき)というんだよ」

「そりゃあ困りますね。今でいう日照時間が無くなるということですからね」

「会議を開いて、神々は一計を案ずるんだ」

「どんなことを案ずるのですか?」

「天の香具山 (かぐやま)から掘り起こしてきた榊(さかき)にだなあ。曲玉を飾り、それを持ってアメノウズメノミコトが、ディスコみたいな踊りを踊っていたら、八百万(やおろず)のたくさんの神々がどっと笑ったのね」

「ドットcomみたいですね」

「また、濱本先生は面白いことを言うね。天照大神は外で大騒ぎをしているものだから、不思議に思ってそっと閉めていた岩戸を開けるんだ」

「そうですよね。何事かと思いますよね」

「その開けた時に、鏡を差し出し、天照大神にお見せすると、さらに不思議に思って鏡の中を覗こうとしたその瞬間に、戸に隠れていた天照大神の手をとって外に引き出し、こうして世界は明るくなったという話なんだ」

「パチパチパチですね。教授、以前テレビの番組の『日本昔ばなし』ですね」

「いやあ。温故知新と申してな。昔のことを調べて、新しき道理を考えるのじゃ」

「恐れ入ります」

「教授、さらに詳しく『三種の神器』の話を聞かせてください」

と、またしてもコーヒーブレイクになり、2杯目の「はまもとコーヒー」を二人して飲んでいた。

「そうだ、濱本先生、この前先生が函館に行ったときのお土産にいただいた『白い恋人』を食べようか。それにしても先生は日本全国いろいろなところに行っているんだね」

「ええ、数年前に日本全国47都道府県すべて行っています。次は日本に現存する天守閣のある12のお城を見たいと計画中で、あと5つぐらい残っているので、近々成就したいと思っています」

「いいねえ。夢があって、動けるうちに旅はしないとね。わしも最近足腰が弱くなったのを感じるね。老いは足から来るというのは本当だね」

「教授それでは続きを」

「『三種の神器』の話でしたね。曲玉、鏡は登場したね。最後に剣だね。先ほどのスサノオノミコトが出雲の国で八岐大蛇と戦った話は有名だね」

「因い な幡ば の白ウサギと並んで、よく幼いとき聞かされました」

「八岐大蛇を退治した際、オロチの中ほどの尾を切ったときにその尾っぽから出てきた素晴らしい剣が『草薙剣』なんだ。そして、この剣をスサノオノミコトが天照大神に献上して『三種の神器』がそろったのね」

「やっと、3つそろいましたね」

「このそろった『三種の神器』を天照大神の孫であるニニギノミコトに授け、ニニギノミコトのひ孫の神武天皇から以降、代々天皇が受け継ぐことになるんだなあ」

「2千年以上も前からのものが、今もずっと引き継がれているんですか?」

「いや、実は1185(寿永4)年、源平合戦で源氏に追い詰められた平氏は山口県・壇ノ浦における合戦に敗れ、当時の幼帝・安徳天皇は天皇の祖母と共に『三種の神器』の内の『剣』と『曲玉』を納めた箱を抱いて深い海に入水したんだよ」

「教授、何かノッてきましたね」

「残りの鏡は続いて入水しようとした女性の袴を船板に射つけられ、倒れたところを取り押さえられ『鏡』は無事だったの」

「ふー。海に沈んだ2つの神器はどうなったのですか?」

「うん。『曲玉』の入った箱は海上にプカプカ浮いていたので回収されたの。しかし、『剣』だけは海中に沈み、見つけることができなかったようです」

「え、じゃあ、今の『剣』は偽物なんですか?」

「そののち、順徳天皇の夢に神示があり、伊勢神宮から送られた剣を新たな『草薙剣』の分身とすることになったんだよ」

「そうなんですか。ところで、教授、『三種の神器』を見たことがありますか?」「あるわけないでしょう。歴代の天皇も見たことがないんだよ……。」

―― 日本のレガリア。鏡は伊勢神宮、剣は熱田神宮、曲玉は皇居にあるんだ。

(なるほど。そうすると『三種の神器』は日本が「日本」という国号を名乗る以前からあって、絶えず継承されていたレガリアなんだ。天皇はその『三種の神器』を歴代守り続けながらも、国民の平安や安寧を祈る人だったのか。だからあの時、あのようなオーラが発せられていたんだ……。)

※本記事は、2017年12月刊行の書籍『女子硬式野球物語 サクラ咲ク2 旅の果てに』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。