そんなふうで施設の生活に馴染むこともなく、三年もすると、施設のすべてに失望したという物言いをするようになっていた。そして「すべては無駄だった」と言い残して、飄々として自分から施設を出ていった。人のうわさでは年金も入るようになって、気ままに暮らしているという。

ところが、いつの頃からか、そんなTが酒を飲んでいる、といううわさを聞くようになった。アル中はスリップ(再飲酒)したら、酒を止めることができなくなって死ぬとしたものである。それでも私はTが死ぬとは思わなかった。彼はそれほど強い意志と孤独を誇っていたのだ。

もし彼の思っているように自分で酒を止められるとすれば、普通の酒飲みと同じで、病気ではなく、そうであれば、死ぬこともないだろう。実際、時折り私に電話してきた時の彼は、いつもながらの落ち着いた彼だった。

しかし、そんな矢先、突然、Tが死んだというあの訃報を、思い掛けなくも聞いたのだった。私の予感は見事に外れてしまった。そうであれば、Tはやはり慢性アルコール中毒だったことになる。彼が自分はアル中ではない、と思って飲んだところから、そして、意志の力でいつでも止められる、と思って飲んだところから、死の谷に転がり落ちていったのだ。なかんずく彼の孤独が彼をして破滅に追いやったのには違いなかった。