人づてに聞いた話では、加藤家のご主人は、糖尿病の合併症で腎症を患い人工透析を毎週三回していたが、その後、突然心筋梗塞で亡くなったそうだ。トイレの汲み取りをしていると、その家に病人がいるかどうか分かることがよくある。屎尿(しにょう)の色、臭い、ドロドロしていないかなど、人の体内活動に使われ、最終的に排泄される物体には、その人の健康状態が、如実に表れることが多いからだ。

たとえば、朝早くに汲み取りに伺って、赤い便が混じっている場合は、大腸がんや潰瘍性大腸炎、又はイボ痔や切れ痔などの人のいる家である。そのなかでも、大腸出血による便は、赤黒い色をしていて大腸がんの疑いもあるので、相手がだれであろうと、病院で検査することを勧める。

しかしなかには、「汲み取り屋ごときに何が分かる」と言っていぶかしい顔をしたり、怒り出す人もいる。それでも年配の方がいる家などでは、

「なんて無礼なんだかねえ~この子は。汲み取り屋さんの言うことは聞いておくもんだよ。そこらの藪医者よりよっぽど当たるんだから。せっかく汲み取り屋さんが心配して言ってくれているんだから、明日にでも医者に行って検査してもらってくるんだよ」

と言って、息子や孫を諭す家が多くあった。

年配の人たちは、経験上、汲み取り屋の言うことは当たると思っていたようだ。実際それで病気が見つかった例も、かなりの確率であった。

当然汲み取り屋が、医学的な知識など持ち合わせているはずもない。ただ、毎月二~三百軒の家の便所を回っていると、人間の臓器という機械で使われ、通り抜けてできた生成物(廃棄物)の特徴と、それを製造した家人の健康状態との因果関係が、経験則から統計的に分かるのだった。

藤倉産業は、西方市から家庭ごみの収集運搬業務も委託されている。

近年、家庭から出るごみや資源物の回収が、数軒の家のごみを一か所にまとめて出したものを回収してまわる「ステーション方式」から、各家庭ごとに玄関先などに出されたものを一軒一軒回収してまわる「戸別収集方式」に変わってきている。そのことで、便所の汲み取りと同じように、各家々の情報が得られることが多くなった。

たとえば、テレビの音がするのに、ごみが数日間、出されないことを不審に思い、作業員が市役所に連絡して、それを警察が確認したところ、家の中で孤独死しているのが発見されたり、意識不明になって倒れているのが早期に発見されて、命が助かった例もある。

市の市民課などは、特に単独世帯や老夫婦世帯、障害者世帯などの安否確認や見守りには、苦慮しているのが実情だ。そこで、藤倉産業では、契約更新のときなどに、ごみ収集と屎尿汲み取り業務の付随サービスとして、市民の見守りサービスを挙げてアピールしている。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『ニコニコ汲み取り屋』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。