「学校や家の居心地が悪いようで、やる気を失っているみたいだ。夏休みに入る前から、学校も休みがちになってしまっていた」

高校は今夏休みか。

「そんな状況に本人も苛立っていて、そのイライラを家族にぶつけてしまうことも多いみたいだ。なんとかしようと両親や先生が原因を聞き出そうとしても、周囲に全然心を開かず、ちゃんと答えようとしない。最近じゃ、親も匙を投げている。特に父親が……」

分からないわけじゃない。いや、どちらかというとかなり分かる。将来への不安。大人に対する不信。学校や家庭という閉じられたコミュニティの息苦しさ。

「なるほど。ただ多かれ少なかれそういう気持ちは持つものじゃないかな。俺も高校の頃そんな感じだった」

そこまで話して、俺は肝心なことをもう一度聞く。

「それで、あの子どういう知り合い?」

「俺の飼い主の孫だ。中学の頃までよく家に遊びにきていた。俺の飼い主はあの子——ヒカルという名前だが——をとても可愛がっていて、今の状態にひどく心を痛めているんだ。でもヒカルは最近じゃ、祖父の家に来ることもなくなった」

桃の飼い主だというおじいさんは、ここから少し離れたところに一人で暮らしているそうだ。桃はたびたび飼い主である祖父の家を抜け出して、ヒカルの様子を見に行く。

でも彼女を遠目から見るだけで、直接接触はできないらしい。ここで再びこの青年が犬という前提で話を進めなくてはならなくなり、ちょっとげんなりした。しかし桃の顔は沈痛そのものだ。

「ヒカルちゃんは、桃のこと認識しているのか?」

「もちろん犬の姿だったら分かるさ。そもそも俺を拾ってきたのはヒカルだからな。でもこの姿で会ったことはないし、今後も会う予定はない」

曰く、この世の常ならざるものは、特別な事情がない限り、この世ならざる部分を人に見せてはいけないらしい。

つまり、俺は特別な事情というわけか。そういえば、その俺の呪いはどうなったんだ?

しかしまずはこっちの話だ。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『金曜日の魔法』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。