「舞茸の、オイルソースのパスタです。細めのパスタを、わざとアルデンテの一歩手前にしてみました。ニンニクとバターの風味で、隠し味はお醤油です」

バルちゃんは、トングとともに大皿を置くと、ようやく自分も恵さんの隣に座った。入れ替わりに、とっくに空っぽになっていた皿を佑子がキッチンに運ぶ。

どんな言動も細やかには見えない基なのだが、バルちゃんの分をそれなりに綺麗に盛りつけて取ってあるのはさすがだ。キッチンから取って返すと、佑子の分も取り分けてくれてあった。トッピングの、かぼちゃの皮の素揚げのグリーンが美しい。もはや基は、無表情で、多分わざと大ぶりのままにした舞茸を口に運ぶ。佑子も、香りの高さにうっとりするのだが、恵さんは自分をじらすようにワイングラスを、またもゆらゆらと。

「バルちゃん。あんたすごいねぇ。芽が出るかどうか分かんないカメラより、いっそレストラン出したら」

考えようによってはものすごく失礼な讃辞だが、何だか恵さんが言うと説得力がある。

そして、ヒロさんが差し出したワイングラスを手で制して、バルちゃんはうつむくのだ。

「もう一品、あるので」

最後の一皿は、かぼちゃのニョッキだった。クリームソースの中に、親指の頭くらいの愛らしいニョッキが並ぶ。甘やかな優しい香りが五人を包んで、誰も言葉を失って微笑む。

「時間がかかるんで、下ごしらえは基さんにしてもらったんですけどね」

胡瓜のディップを作るのに、ずいぶん時間かけてるなぁと、昨晩は思ったのだけれど、そういうことだったのか。佑子は頼りないほどの弾力のニョッキを口に含んで、舌と上あごでつぶしてみた。クリームソースの内側からにじみ出すかぼちゃの甘味が、何だか照れているような表情で口の中に広がる。美味しい、というより、嬉しい、という気持ちでいっぱいになった。バルちゃんの心が、自分の一番柔らかい所を撫でてくれている。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。