約束の場所

「アクアパッツァ、作ってみました」

バルちゃんが続いて捧げ持って来た大皿では、立派なスズキが湯気を上げていた。肉厚のアサリと、トマトの清らかな赤。

「魚屋さんでいいスズキを見つけたんで、チャレンジしたんですけど。あ、トマトは基さんのトマトを、グリルして使ってみました。ドライトマトよりフレッシュな方がいいかな、って」

「基くん」

ヒロさんが口を開いた。基は思い切り大量のパプリカを口にしていて、目をまん丸にしている。

「取り皿用意して、取り分けてよ。あと、これ」

ヒロさんはいたずら小僧めいた笑顔で、引き寄せたバッグから一本のビンを取り出した。

「とっておきの、クース」

佑子が食器棚に立って、人数分の皿と琉球ガラスのショットグラスを運んだ。佑子は泡盛が好きじゃないし、恵さんだってそうだ。でもヒロさんと基は、沖縄の味に目がない。どうせ要るだろうと、アイスぺールにも氷を詰め込んだ。その背後で、もうもうと上がる湯気の中、バルちゃんはパスタを茹で上げる。明らかにイタリアンなメニューなのに、何で泡盛なのかな。