現にこの3剤の1つでアレルギーが起こると他の2つでもアレルギーが起こるという交差アレルギーの報告もあります。では②テトラサイクリンによる顔発疹はアレルギー性ではなかったのでしょうか?

アレルギー性と見間違える発疹に寒冷湿疹などの物理的刺激によるタイプが知られています。ヒスタミン等のアレルギー症状を引き起こす物質を中にため込んでいるのが肥満細胞(マスト細胞とも言います)ですが、寒冷刺激や接触刺激などの何らかの物理的な刺激がその刺激付近に存在する肥満細胞の破損を引き起こして、中にあったヒスタミンを放出してしまうという現象です。ヒスタミンが放出される以上、皮疹や発赤、かゆみ等が出てしまいます。

②テトラサイクリンによる発疹は、この物理的刺激、つまり機序分類でいう2番目の薬物毒性型の物理刺激による可能性が高いと思われます。機序別分類1番目の薬理作用ではほぼ考えられず、3番目のアレルギー反応説では、3回目で使用した③ドキシサイクリンで発疹などのアレルギー反応が起きなかったことの説明がつかないからです。

④まとめ

機序別分類からの推論でしかないのですが……、ミノサイクリンの脳内移行で強いめまいが生じたものの、投与期間中には免疫学的な感作は起こらなかった。次にテトラサイクリンを投与したところ、顔の肥満細胞に直接物理的傷害を引き起こしてヒスタミンが放出されて発疹を起こした。通常量で肥満細胞に傷害を与えたという意味から、この患者さんの肥満細胞はテトラサイクリンを受け入れるには構造的にあまりに脆弱過ぎた可能性があるのかもしれません(この意味で特異体質だった)。

逆に他の2薬で物理的障害の顔発疹が起きなかったのは、薬物動態の相違が関連しているのかもしれません。テトラサイクリンは1日4回投与製剤なので、Cmaxが1日4回も肥満細胞にスパイクのように突き刺さるのですから……(他方、ミノサイクリン、ドキシサイクリンはともに1日1~2回の服用でした)。

副作用の機序別分類は、いつ頃その副作用が起こり得るのかとか、その副作用が起きたときにはどのような対応をするのがよいのかを教えてくれる便利な分類法と思われますが、実際に起こる副作用は機序を特定するのが難しい場合も多いと考えられます。

今回のテトラサイクリン系の例は薬物過敏型と考えられるのですが、小分類では特異体質型で肥満細胞の患者特有の脆弱性を原因として、通常量(本患者は低体重で過量だった可能性もあり)でも薬物毒性型が強く出たと推測しました(特異体質型と薬物毒性型の混合事例)。

それにしてもテトラサイクリンで即中止扱いのアレルギー性を疑う副作用が出たにもかかわらず、交差アレルギーの可能性が高い同骨格系薬剤のドキシサイクリンの投与は普通、躊躇すると思われるのですが、あえて投与された処方医の判断はいかなるものだったのかが知りたいところです。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。