[表2]栃木県那須烏山市の基盤整備前の水田畦畔・法面・水路に形成された雑草植生の生活型(小笠原)

また、基盤整備前の畦畔法面で観察された147種の雑草を生育型で分けたところ、表2に示すように、栄養繁殖型が3種類、分枝型が32種類、直立型が33種類、つる性が9種類、ロゼット型が43種類、叢生型27種でした。

さらに休眠型から分けると一年草が53種類、多年草地表植物が19種類、多年草半地中植物が33種類、多年草地中植物が21種類、水湿植物が17種類でした。なお147種の雑草には毒草は全く含まれていませんでした。

細かい説明になってしまいましたが、このデータは一年生雑草から多年生雑草まで、さまざまな雑草が周年にわたって乾燥している場所から湿っている場所まで、あらゆる時期あらゆる場所に生育していることを示しています。

[図1]法面の断面と各部の名称(小笠原)

傾斜地は図1に示すように、高い場所から低い場所にかけて天端(てんぱ)法肩(のりかた)、法面、法尻(のりじり)と呼ばれ、天端が固結して硬いのに対して法面は軟らかく、法肩は乾燥しているのに対して法尻は湿っていることから、同じ法面においても位置によって土壌水分や土壌硬度が異なることが分かります。

このことは傾斜地全体を植物で被覆するためには、踏圧や乾燥に強い植物から湿った場所でも旺盛に生育する植物まで踏圧や乾燥に強い植物から湿った場所でも旺盛に生育する植物まで多様な植物が必要であり、一種類の植物(雑草)だけでは法面全体を緑化できないことを示しています。このように基盤整備前の畦畔法面の植生は多様性に富んでおり、一年中、さまざまな小型の雑草で被覆されていたために、土壌流亡が未然に防がれていたと考えられます。

多様性はある場所におけるα多様性と、土地利用形態の異なる場所間のβ多様性とその和である地域全体のγ多様性に分けられますが、この場合はα多様性が高いということになります。この多様な水田法面植生はどのようにして形成されたのでしょうか。

決して、自然に出来上がったのではなく、農家の人たちが長い年月をかけて、根の張り方や乾燥に対する強さなど、さまざまな観点から雑草を取捨選択して作り上げたものと考えられます。昔は牛馬が農耕用に飼育されていたことから、雑草が家畜の餌になるかどうか、つまり毒かどうかも雑草を選ぶ重要なポイントだったに違いありません。草刈りが毎日行われていたことから、大型の雑草が駆逐されて、小型の雑草に徐々に収斂したと考えられます。

さらにゲンノショウコやアヤメも法面に生育していました。ゲンノショウコは薬用として利用されていたでしょうし、アヤメは農作業の疲れを癒すために意図的に植えられたのかも知れません。

単に種類が多いのは多種類であって多様性ではありません。何が多様性かといえば、生き方が多様なのであって、生活様式の異なる雑草が同所的に生育しているからこそ法面(傾斜地)が流されずに済んでいるといえます。多様性に富んだ水田法面植生がクズ、セイタカアワダチソウ、オオアレチノギクなどが優占する単純な植生に変わったのは、基盤整備によって特定の雑草しか生育することのできない切土法面が出現したためと考えられます。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『 雑草害~誰も気づいていない身近な雑草問題~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。