雑草を用いた法面保全

日本は傾斜地の多い国で、国土の七割近くが中山間地域に含まれています。もし、地面が植物で覆われていなければ土壌は瞬く間に雨で流されてしまい、生活環境は危機的な状況に陥ってしまいます。以前、中国の黄土高原と呼ばれる日本の国土面積の1.5倍もあるところで、沙漠の緑化研究に携わったことがありますが、あの荒涼たる風景を思い出すたびに、雑草の最たる有用性が土壌保全ではないかという気がしてなりません。

[写真1]鉱山跡地と水田の法面(小笠原)

道路建設や小さな水田を大型の水田に変える基盤整備などの工事で出現する傾斜地は法面(のりめん)と呼ばれ、土壌を盛った盛土法面(もりどのりめん)と土壌を削った切土法面(きりどのりめん)に分けられます。盛土法面では土中の埋土種子集団から多くの雑草が生えてきますが、写真1に示すように、土壌が痩せていて埋土種子集団が形成されていない切土法面からは雑草はほとんど生えてきません。このような場所では、地表面が雨水で洗掘されて溝が形成されるガリー侵食(gully erosion)が起こりやすいために、地表面が何らかの植物で被覆されていなければなりません。

被覆植物には、ファイトレメディエーション用植物と同様に、根系を土中に縦横無尽に張り巡らせて土壌を強く保持する能力だけでなく、どんなところでも生育できる高い環境適応能力が求められます。以下に、筆者らが2003年に栃木県内の水田において、基盤整備の前後で畦畔法面の雑草植生がどのように変わったのかを調べた研究結果を紹介します。

[表1]雑草植生に及ぼす基盤整備の影響(栃木県那須烏山市)(小笠原)

表1に示すように、147種もの雑草が基盤整備前の畦畔法面で観察され、その内、帰化雑草は20種で帰化雑草率は13.6パーセントでした。ところが同じ地域において基盤整備3年を経た畦畔法面を調査したところ、雑草の種類は147種から32種に減少し、逆に帰化雑草率は28.1パーセントに上昇していました。