「お疲れ様でした」

「晝間さん、今日は大変な一日でしたよ」

「ガイドから一部始終聞きましたが、本当に大変でしたね。小山内さんは何ともなかったんですよね」

「見ているだけで、こっちもおかしくなりそうでしたけど。明日は大事な視察があるんで、何ともなくて助かりました」

そう話す小山内は疲労困憊(ひろうこんぱい)の様子で顔もやつれて見えた。

「明日はどの辺に行かれるんですか」

「ラグナとバタンガスにある工業団地を一気に見てきます。もうすぐにでも日本から工場を移さないと生き残れないですよ」

「明日の待ち合わせ、何時にしますか」

「夕方六時前にはもどる予定ですので、六時半にロビーということで」

「分かりました。それではまた明日」

小山内の部屋を辞しロビーに降りると、ラウンジで添乗員の鴨下と平瀬が話しているのが目に入った。

「原因は判明したんでしょうか」

正嗣は平瀬に聞いてみた。

「昨日の夕食が怪しいけど。マカティにある『レッドクラブ』っていう海鮮料理レストランで食べたんですけどね、聞いてみたら他のグループ客からは食中(あた)りのクレームはないそうで、ここと断定できないんですよ」

「でも皆さん回復してよかったですね」

「まぁ、上からでも下からでも悪いもんを全部出しちゃえば大丈夫でしょ。よくあるんですよ、こういうことは」

何か表現が露骨だが、言っていることは間違いない。

「延泊される小山内さんですけど、明日の工業団地視察もヴェロンさんで手配されるんですか」

「いや、ウチじゃないけど」

「知り合いのコンサルタントが案内するって言っていましたよ。ウチも明日の離団の後はノータッチなので」

鴨下が話に加わった。

「そうですか。明日の夜、食事の約束をしているものですから」

「東雲電具さんはウチのいいお客さんなのでよろしくお願いします」

「来年もこの団体を扱われるのですか」

「来年は別の会社が幹事になるので、別の旅行社になるかもしれません。幹事会社が旅行社を決めることになっておりまして。またウチでやることになりましたら、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。それでは私はこれで失礼致します。お疲れ様でした」

正嗣は二人に挨拶しホテルを後にした。