今日は初めての出動(しゅつどう)だ。飛行場で荷物がベルトコンベアに並んで流れてくる。へロイーナとソフィアは、はりきって乗客の荷物を調べた。

「へロイーナ、今日は麻薬が見つからなかったけれど、これからたくさん見つけようね」

ソフィアは、小さな妹に言うように優しくへロイーナに話しかけた。

飛行場での仕事に慣れてきたある日、へロイーナは変なにおいのする荷物を見つけた。今までに覚えた三種類の麻薬が混ざったようなにおいだった。へロイーナはその荷物をひっかいて教えた。現場での発見は初めてのことなので、ソフィアは緊張で引綱(ひきづな)を持つ手がふるえた。ソフィアからの連絡で係官が、荷物を持ってきた乗客を別の部屋に連れていった。その乗客は、ふるえながら麻薬を持ってきたことを白状した。出てきたのはMDMA(*注1)という、錠剤(じょうざい)の形をした麻薬だった。

MDMAはヘロイン、マリファナ、コカインなど、植物から作る麻薬とはちがい、化学合成(かがくごうせい)(*注2)で作られるものだ。訓練所の人たちはとても驚いた。なぜなら、MDMAのにおいはへロイーナに教えていないからだ。それなのにどうして分かったのだろう。MDMAを密輸する犯人たちは、コカインやヘロインやマリファナを密輸することもあるので、そのわずかなにおいをかいだのだろうか。この初めての発見で、へロイーナが麻薬探知犬としてのずばぬけた能力を持っていることが分かった。

へロイーナはソフィアとの仕事が楽しくてたまらないようだった。それは出動する前のそわそわした様子で分かった。ソフィアが犬舎の扉を開けると、興奮して走りだしてしまうこともあった。

ヘロイーナはこれまでに、一度大きな発見をした。二キログラムのコカインが入った荷物を見つけたのだ。二キログラムのコカインとは数万人の人が使えるほどの麻薬だった。それほどたくさんの麻薬を発見したのだから、大手柄(おおてがら)だ。もちろん、そのときのソフィアはとてもうれしそうだった。

しかし、見つかった麻薬が少しだったときには、ソフィアはもっとおおげさにへロイーナをほめた。たくさんの麻薬を見つけるより、少しの麻薬を見つける方が難しいからだ。麻薬が見つからなくても、仕事が終わるとソフィアがたくさん遊んでくれる。

ソフィアは時々、へロイーナが本当に仕事の意味を分かっていて、麻薬を探しているような気がすることがあった。

「へロイーナは麻薬が人間をどれほど残酷にするか、一番よく知っているものね」

へロイーナの首をなでながら、ソフィアはよく、そう話しかけた。へロイーナは仕事や訓練が終わった後、訓練所の芝生(しばふ)に座って、ソフィアと夕日をながめている時間が大好きだ。今では体も大きくなり、知らない人が見れば怖い犬だと思うかもしれない。けれども、大きくなってもへロイーナは優しい性格のままだった。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『ヘロイーナの物語』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。