おばあさんの揺り椅子

リビングにロッキングチェアが置いてある。引っ越ししたとき、ソファーを買うつもりだった。でも重そうである。それにどこの家に行ってもダイニングセットとソファーセットが別にある。みんなと同じなんてつまらない気がした。一人暮らしの私が、食後コーヒーを入れてわざわざソファーに場所を変えるだろうか?

やめた。代わりにおばあさんの揺り椅子を思いついた。子どもの頃読んだお話によく出てきた椅子である。白髪のおばあさんが髪をお団子に結い、丸い眼鏡をかけ、ひざ掛けをして座っている。膝の上には猫がいて……。懐かしい絵である。ゆっくりするとき、あんな椅子が楽しそうだ。

見つけたのは「飛騨の家具」のロッキングチェア。脚の曲線が滑らかできれいだった。深緑の生地に花模様の背あてと座布団がついている。布団は古くなっても作り替えてくれる保証がついていた。よし、これだ!

届いた椅子に張り切って座った。座面と背もたれの角度がちょうど気持ちいい。背もたれが高いので寄りかかると頭まで支えてくれる。足を離すとゆらゆら揺れて楽しい。

そうだ、本でも読もう。

そこで気がついた。この椅子で本を持ち続ける体勢は難しい。おまけに自分の体をちょうどいい木枠にはめ込んだようで、座っていると、同じ姿勢に疲れてくる。遊びに来た友人たちが異口同音に、

「ウワー、かわいい!昔話のおばあさんの椅子ね」

と、座ってゆらゆら揺れている。でも二、三分でダイニングテーブルに戻ってくる。

「お茶が飲みにくいわ」

と言って。

疲れたとき、ロッキングチェアをそっと押しやり、絨毯に寝ころがってテレビを見る。これが一番楽なのである。

やっぱりよそのお宅のようにソファーにすべきだった。大多数の人がやることは、それなりによさがあるのだと今さらに思った。

時々拭いてやりながら、

「見た目はかわいいのに、使い勝手はイマイチだねえ」

と、椅子に言ってみる。

「お前がおばあさんのように静かに座っていられないからさ」

と、椅子は答えた。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『午後の揺り椅子』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。