街角で老人二人

小春日和の午後、プールに行くために駅へ向かっていた。四つ角に出たら、向こう側におじいさんが仰向けに転んでいるのが見えた。

急いで道を渡り「大丈夫ですか?」と声をかけた。後ろから脇に腕を入れて起こしてあげようとした。何せ週二回プールに通っている元気なばあさんのつもりである。でも、男の人の体は重くて動かない。おじいさんは「大丈夫です」と言うけれど、間延びした言い方で、病気の後遺症があるように思われた。

自分で手をついて体を起こそうとするが、手に力がないのか、体を支えきれず、起き上がれない。前に回って手を引っ張ろうとした。私の腕力が足りないのか、二人のタイミングが合わないのか、何度も引っ張るが起こせない。

組んず解れつというほどではないけれど、向こうのマンションの窓から見た人は、「あのおじいさんとおばあさんは、何をしてるのかしら」と思ったことだろう。

男の人が通らないかなと思っていたら、読売新聞の服を着た男性が見えた。声をかけるとすぐ来てくれた。おじいさんはフェンスにつかまって何とか上半身を起こしたけれど、お尻が持ち上がらないままだ。男性は何ということもなく後ろから支えて立たせ、杖も持たせてくれた。

ほっとした。ありがとう。

駅に向かいながら考えた。どうして平らな歩道で転んでいたのだろう。見えにくい舗装の凹凸があって、躓いたのだろうか。私は歳をとっても自力で歩けるようにと思って、平坦なこの街に転居したつもりである。でも歩けると思ってはいても、いつかは転んで、彼のように起き上がれない、なんてことになるのかもしれない。

今、何にもできなかった私。起こしてあげたいという思いと、自分のやれることには差があった。七十歳を過ぎた老人なのだと改めて思う。お節介がすぎたようだ。

おじいさんは転んだ上に、似たような歳のおばあさんに手を出されて、なおさらショックだったかもしれない。ピチピチギャルの手じゃなくて、ごめんね。

でもまあ暖かい午後のできごとでよかった。寒い日だったら泣きたくなるもの。