神様の俳句講義 その八 山粧やまよそおう

俳句の神様は俳句を離れると意外と気さくな方で、私の作った句の出来がめずらしく良くて、俳句の指導が早く終わった時など、雑談につきあってくださる。そのような際に、神様の公的な仕事や私生活について聞いている。

日本には約一千万人もの俳句の作り手がいると言われているので、それを相手にする俳句の神様はたいへん忙しい。神様は、出雲に一か月間長期出張する神無月かんなづき(陰暦十月)と正月休みを除く毎日、俳句指導をされている。刻々と最新化される予定表通りに日本全国どこにでも姿を現し、仕事を終えるとさっと消えて、次の目的地に向かう分刻みの日々である。

神様の面会日程は五次元のスケジューラーで作成され、自動的に神様の左の手のひらに表示される。このような過密スケジュールをこなすために、離れた場所への移動はいったいどうしているのだろうか。交通機関の中で、お姿を見かけたことがないので、飛行機の翼や新幹線の屋根に座して出張しているのか、それとも雲に乗ってだろうか。

後者の場合、日本晴れの日や、星月夜には移動手段がなくなる。

神様は、五次元の超高速テレポーテーション装置を利用している。それを開ければ行きたい場所へどこにでも行ける便利なドアが漫画に出てくるが、そのドアの五・七五倍の性能だそうだ。電子マップの五百七十五倍の精度のマップ機能もついており、地図上の目的地に右手の小指を置くと、五・七五秒でそこへ到着する。このテレポーテーション装置は、忙しい神様の時間省力化に大いに役立っている。