土産物屋に入って四十分ほど経つと、買い物を終えたメンバーが店の出入口付近にパラパラと集まり出していた。

「GH部品会の皆様、これからバスにご案内しますので集合してください」と添乗員の鴨下が店内アナウンスを流し、ジェフリーに集まった団員をバスへ案内させた。店を出たバスは十分ほどでホテルに到着した。

あと二日間の行程はガイドに任せても問題ないと思われたので、正嗣は一行がバスを降りる前にマイクを取り挨拶をした。ツアーの残りの日程は、明日パグサンハンの川下り観光をし、明後日の午後の便で帰国の途につく。

ただ、東雲電具の小山内だけはツアー最終日に離団し、滞在を一泊延ばし工場用地の視察をするらしい。その後色々話もしたいので明後日の夜に食事を一緒にしないかと小山内から誘われた。正嗣は二つ返事で了承した。この時はあと一度の夕食でこの一行のケアも終わるはずであったが、この後続けざまに事件が起きるなんて夢にも思わなかった。

翌日は普段通りに出社し、前日の工場視察が問題なく終了したことを曽与島に報告し通常業務にもどった。

昼食からもどった頃だろうか、ガイドのジェフリーから電話があった。緊急事態発生である。ツアーの団員の半数以上が体調不良を訴えているらしい。

その日は予定通り八時にホテルを出発。パグサンハンへ向かう途中に四人が腹痛を訴え、数回ガソリンスタンドのトイレに寄ったそうだ。嘔吐と下痢の症状が出ているらしい。パグサンハンに着くとその四人は川下り観光へは参加せず、ボートの発着地点にあるラピッズホテルに部屋を取り休ませた。

添乗員の鴨下も付き添いで残った。川下り観光中更に五人の団員が腹痛のためトイレに行きたいと言い出し、途中でガイドと一緒にラピッズホテルへ引き返した。ツアーに同行している現地カメラマンがガイドに代わり残り九人の案内をしているという。

ヴェロントラベルの平瀬は集団食中毒の疑いがあるので、到着日の夕食から今日の朝食までのメニューを調べるとともに、病院の手配となった場合の準備をしているらしい。正嗣も後でホテルへ様子を見に行くということでガイドからの電話を切った。

その後、残りの九人が観光からもどると内三人が腹痛を訴えたというが、嘔吐や下痢の症状はないという。川下り観光に参加しなかった四人と観光途中にもどった五人の内の二人の計六人の症状は重いようでホテルのドクターを呼んだそうだ。その間に食事の取れそうな団員はホテルのレストランで昼食を取った。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『サンパギータの残り香』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。