果たされた約束

今度は私がなぜ今回パリに来たかを説明した。

「前回、あなたは『またここに戻ってきて』と何度も私に言った。なぜ? 私は自分で『戻って来る』とあなたに言ったから私は戻ってきたのよ。あれは私の約束だったの」

彼はその約束という言葉に反応した。そして真顔で「君と僕の?」と言うので「そうよ」と答えると、彼は頷いた。

「どうして戻ってきてって言ったの?」と私が尋ねると、彼の答えは「わからない」というものだった。なんか彼らしいな、が私の印象だった。それからまた少しあいだをおいてこう言った。

「でも、とにかくもう一度君に会いたかった。君は日本人だけれど、オープンマインドを持っている。レストランに初めて来たとき、すぐにわかった。魅かれたんだ」

その理由は私を納得させるのに十分な台詞だった。きちんと答えてくれたことや、彼の正直なところは私の心に響いた。

「私はあのあと、日本から手紙と写真を送ったのよ」とスマホでその写真を見せる。

「これを? 届いていないよ」

「どうして?」

「わからないよ、そんなの」

「じゃあ、絵葉書は? 届いた?」

「それは読んだよ」

「でも、あなたは返事をくれなかった」

「だから、エジプトに帰っていたんだよ。こっちに戻ってきて三日後に君が来るって書いてある。返事をする前に君がここに来るよ!」と笑っている。

そうかあ……そういうものは仕方ないな。私は一理あるよな、と彼の話を民族性の違いと位置付けた。私は電話もあるだろうに……とも思ったが、彼はそれを察したのかさらに続けてこう言った。

「きみの葉書に朝早く着くとあったから、朝からずっと君が来るのを待っていたよ。店の中から通りを歩く人を全部追っていた」と指を左右に動かした。

私はそれで満足だった。私が来るのを待っていてくれたことで、気持ちはほぐれたのだった。カフェであるにもかかわらず彼は私にキスをしてきた。そうだここはパリだった。それも一つの風景なのだろう。

「私は美人じゃないから」と言うと、彼は、「たしかに君は美人じゃない。でも君の目は美しいよ」

真顔で私の顔を見てそう言うのだ。正直、嬉しいようなそうでないような。ほんとうに正直な人だ。

私は何から何まで想定外のことに彼の話についていくのが精一杯だった。イタリア人と思っていたのが、実は故郷はエジプトで、フランス人で居住はランス……。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『Red Vanilla』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。