「私としては、先生のお考えどおりにやって頂ければよろしいかと思います。よろしくお願いいたします」

「奥様のご意見も聞いておかないといけませんね。私からお話ししてもよろしいでしょうか?」

「いや、結構です。もうここで決めていただいていいですよ。和子に聞いても、今は冷静に判断できないと思います。なにとぞよろしくお願いします」

「わかりました。薬をお出しする際に、私から化学療法のお薬のことをお話ししましょう。抗ガン剤を、まずは点滴で注入し、その後は服用していただくことを、ご本人に説明させていただきます」

この段階で、和子さんのステージ4の肺ガンは、化学療法のみ行われることになった。次の日にカルボプラチン450ミリグラムとパクリタキセル280ミリグラムの併用で点滴静注が行われた。その後、牧野医師は、今回の化学療法の評価を行ったが、肺ガンはまったく縮小していないことが判明した。

肺ガンの胸椎転移ということがわかってから、もうすでに50日が経過していた。和子さんの病態は入院後の緊急手術で一時的に下肢のしびれが改善して、杖歩行ができるまで改善した時期もあった。しかし、術後から3週間が経過した頃から、再び歩けなくなり、日増しに悪くなっていた。この時点で、コルセットをしないと車椅子にも座ることができなくなっていた。

肺ガンはすでに転移があったために、手術の適応がないと何度も言われた。胸椎の腫瘍切除後に再び状態が悪化したことにより、敬一さんたちは転移性骨腫瘍の悪化を恐れたが、和子さんは再び歩けるようになることを目標とし、そのことを決して諦めなかった。担当の理学療法士もそんな和子さんに協力的であった。毎日のリハビリが、和子さんとってものすごく励みになっていた。

しかし、カルボプラチンとパクリタキセルを併用した化学療法は顕著な効果が認められなかったため1回のトライで終了となった。胸椎への転移性腫瘍の増大がMRIの画像診断によってわかったことも、終了のきっかけになった。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『改訂版「死に方」教本』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。