2006年

フランスの買い物

フランスでは日曜日は店がすべて(パン店、生花店を除き)閉まってしまうので、土曜日中に一週間分の買い物をしなくてはならない。買い物は主にスーパーへ行くが、日本の普通のスーパーよりはかなり広く、食料品、衣料品、生活用品、電化製品、DIYの用品、文具、書籍、CD、DVDなどのコーナーもある。

メモを片手に買い物かご(日本の手押しのかごより大きく、使用するのに一ユーロが必要だ。もっとも返却するとそのお金は戻ってくる)を押しながら、目当ての品を探す。フランス語なので探すのにひと苦労。台所用の洗剤か風呂用かトイレ用かちゃんと確かめなくてはならない。ここでもフランス人をつかまえて聞かなくてはならないが、皆親切に教えてくれるので助かる。

スーパーのシステムで日本と違うのは、野菜と果物の買い方である。日本のようにパックになっているのもあるが、それは一部でほとんど量り売りだ。一本からでも買えるので私のような単身者には便利である。山積みされたじゃがいもやにんじん、りんごやバナナを自分で好きな分量だけビニール袋に入れ、それをはかりにかけると料金が計算され、バーコードシールがプリントされて出てくる。シールにはのりがついていて、ビニール袋にペタッと貼りつけ、最後にレジでお金を払うというものだ。

はかりの前には野菜や果物の写真が貼られた一覧表(パネル)があり、はかりにのせてその品物の写真を押すことで品物を特定し計算される仕組みである。こうしたはかりが野菜、果物のコーナーに何台かおいてある。

ところがりんごでも数種類あり写真を見ただけでは区別がつかない。一覧表には百五十種類ほどの野菜、果物がある。よく見ると、陳列棚に品物名が書かれているが、そこに番号も書かれていて、その番号をたよりにはかりの前のパネル(写真に番号が書かれている)を押すことになる。何種類もの野菜、果物を買うと、番号を一度に覚えられないため、一品選ぶごとにいちいちはかりまで行ってシールを貼り、また別の品物を袋に入れてはかりにかけというのを繰り返すことになる。

このシステム、最初はよくわからず、フランス人がやっているのをそばで観察してようやく理解できたのだった。係の人がはかりの後ろに座っていて、はかりにのせるとあとは係の人がパネルにタッチしてバーコードシールを貼ってくれる店もある。このシステムだといちいち番号を覚えなくても、まとめて買い、一袋ごとにはかりに乗せればよいのでこちらのほうが便利である。

肉はとにかく種類も量も多い。料理の仕方がわからないので、私はあまり買わない。魚は日本のようにパックになっていなくて、鮮魚店のイメージだ。鮭やたら、まぐろなど切り身で売っていて、指をさして袋に入れてもらう。それでも切り身が大きく、私のような単身者は小さい切り身を探すのに苦労する。支払いはいっしょにレジでできる。

日本との違いを感じるのは、ミネラルウォーターとワイン、そしてチーズのコーナーがとても大きいことだ。フランスでは水道水は飲めるが、石灰分がとても多いので、皆ミネラルウォーターを大量に買い込む。なんでも世界一のミネラルウォーター消費国だという。一・五リットル六本がひとセットになっていて、とても重いので買い物は車でないと不便である。

ワインは産地別にずらりと並んでいて、安いのは一本二ユーロで六本パックというものから数十ユーロするものまでたくさんの種類があり、どれがどの程度の味かまるでわからないので、十ユーロ程度のものを適当に買う(これも重い)。チーズもたくさんの種類があり、違いがわからないまま適当に買って食べ比べる。チーズはすぐ硬くなってしまうので、食べるのに忙しい。

と、こうしてひととおり見て歩きながら、品物を次々にかごに入れて、レジで精算ということになる。あるときは、レジで計算中にじゃがいもの袋にバーコードシールを貼っていないと言われ、あわててその袋を持って野菜コーナーに取って返し、番号を確認しはかりに乗せ、シールを貼りという例の作業を大急ぎでやり、駆け足でレジに戻ったこともあった。後ろの客を待たせたままなので、大汗をかいてしまった。

レジのシステムもまた日本と違う。日本では買った品物をかごに入れたままレジ係の前に置けば、レジの人が一つひとつ取って、バーコードを読み取り、かごに入れてくれる。そして、お金を払ったあと客がそのかごを持って、袋づめコーナーでビニール袋に入れる、というシステムだ。

フランスでは、レジの前にベルトコンベアーがあって、客がかごから品物を出してその上に乗せる。前の客の精算がすむとそのコンベアーをレジの人が動かして進める。品物を並べるとき前後の人の分と区別する必要があるため、仕切り板を置く。レジでバーコードを読み取った品物はすぐ脇の商品つめコーナーに置かれる。客はそれを袋に入れる。すべて袋づめを済ませたあと料金を払う仕組みなのである。

従って前の人がすべて袋づめを済ませ、料金を払い終わるまで、後ろの客はじっと待っていることになる。このシステムも最初はとまどい、前の客のやっていることを観察する毎日であった。日本のほうが早いかなあ。

最近はスーパーでビニール袋を廃止しているので、自分で袋を持って行くか、その場で袋を買わなくてはならない。袋を持って行くのをちょくちょく忘れるので、そのつど買った袋が家にどんどんたまってしまう。いずれにしても買い物には時間がかかり、だいたい土曜日の午前中は買い物でつぶれる。だがいろんな品物を見て歩くのは結構楽しく、あっという間に時間がたち、あとでどっと疲れを感じることになるのである。

フランスのごみ出し

土曜日は一週間分の買い物、掃除、洗濯、アイロンかけそして近所を散歩。日曜日は近郊をドライブというのが私の週末の行動パターンである。

四月も末、いま夜七時になるがまだ太陽が西の空高く輝いている。日没が九時すぎなので夜十時でも西の空は暮れなずんでいる。私のアパートの前は小さな公園になっていて、さっきまで子供たちの声が聞こえていたが、いまは教会の鐘の音と鳥の声だけですっかり静かになった。というのもこの公園は夜七時には門が閉まり誰も入れないからだ。公園はとてもきれいに手入れされていて、花が咲き、白鳥やカモが池で泳いでいる。フランス人はこうした公園をとても大事にするようだ。

ところが街を歩くと、フランス人のマナーは決してよいとは思えない。日本人の公共マナーも自慢できるとは言えないが、フランス人はまず犬のふんの始末をしない。道を歩いていてよそ見をしていると、踏んづけてしまうので注意が必要である。タバコのすいがらも平気で道路に捨てて行く。前からすごい美人が歩いてきて、「ああフランスに来てよかったなあ」と思っていると、吸っていたタバコをぽいっと道路に捨てて行くのを見てがっかり、ということもある。

工場でも掃除をしたり、きれいに整頓するというのがフランス人は苦手のようだ。不良品を出さないためや安全のため、まず整理、整頓、清掃、しつけ、清潔の5Sが日本では基本とされている。フランスでは何度言っても一旦はきれいにしてもすぐ元に戻ってしまうのだ。どうも掃除するのは自分たちの仕事ではなく、掃除する役割の人がちゃんといるのだから、その人に任せればよいと思っているようだ。そうした職業意識は階層化された社会を反映しているのではないかと思う。

フランスの家庭ごみは三種類に分けて出すことになっている。空きビンなどのガラスごみ、新聞・雑誌、ペットボトルなどのリサイクルできるごみ、生ごみなどその他のごみだ。ビンなどは道路脇の木でできたごみ箱に入れる。皆ワインをたくさん飲むので、もっぱらその空きビン回収用なのだろう。空きビンはそのごみ箱まで持って行って捨てる。プラスチックごみとその他のごみは分けて、アパートの一階にあるごみ置き場に捨てる。ところが捨てに行ってびっくり、ちゃんと写真つきで分けるように書いてあるのにまったく分別されていない。 

アパートでは各階にダストシュートがついていて(私のアパートでは各階のエレベーターホールについていて、毎日捨てる程度の量ならばビニール袋に入れて毎朝出がけにそこから投げ込めばよいので便利である)、そのシュートは一階のごみ置き場につながっている。そこには大きなプラスチック容器が待ち受けていて、落ちてきたごみを受ける仕組みになっている。だがその容器はその他ごみ専用で、プラスチックなどリサイクルごみは別にして一階まで持って行き、別のプラスチック箱に捨てなければならない。ところがダストシュートから何でも捨ててしまうので、まったく分別されない状態になっている。

この点をみると、フランス人より日本人のほうがごみの分別意識の徹底度は高いような気がする。

ごみ収集車は日本より大型で、リフトがついていて、道路にある大きなプラスチック製のごみ箱を回収の人が車まで運び、リフトで持ち上げ、くるっと回転させて車の中にごみを移す仕組みだ。この大型のごみ回収車の収集日時が定期的なのかよくわからない。ときどき朝の出勤時に狭い道をふさがれ、回収が終わるのをじっと待たなくてはならないこともある。あらかじめ曜日、時間がわかればその道は避けて別の道にするのに……。

きょうもダストシュートから捨てたごみがストンと一階のごみ容器に落ちた音を聞いてアパートを出たのであった。

サングラス

夏至が近づき、最も日照時間が長くなった。夜の十時は日没直後でまだまだ外は明るい。七時から始まった飲み会を終えて九時半頃店を出て歩いて帰ったのだが、途中のレストランの屋外の椅子は軒並み満杯であった。帰る途中人だかりがしていて、何だろうと思って見ると、バーに入りきれないお客が外に出てみんな飲み物片手に道路に出ているのだ。

この二、三週間でここ西フランスもすっかり夏モードになった。オフィスの女性たちはいっせいにタンクトップ、キャミソールスタイルになり、目の保養になるというか、机に座っていて目のやり場に困るほどだ。なかには肩にタトゥーのシールを貼っている女性もいたりして、フランス人は自由奔放である。さすがに工場のラインで働く人は作業着を着ているが、事務部門には服装コードがない。かがんだ女性の胸の谷間につい視線がいってしまうのは私だけだろうか。

アパートの近くにタボール公園という大きな公園がある。晴れた日はどっと人が繰り出し、ベンチは満杯、芝生もあちこちで人が寝そべってる。フランス人は本当に外に出るのが好きだ。そして日に当たろうとする。ベンチも日が当たるほうが先に埋まる。きっと暗くて天気の悪い陰うつな冬の日々から開放される喜びをおもいきり味わおうとしているのであろう。紫外線が強く、私などは努めて日陰を歩くのだが、フランス人は肌をおもいきり出して陽を浴びようとする。水着ではないかと見まがうスタイルの女性が甲羅干しをしている。皆一様にサングラスをかけて、公園がさながら天然の日焼けサロンのようだ。

この季節、公園や道を歩く人は老いも若きも、男女を問わずだいたいサングラスをしている。紫外線が強く、さらに碧眼の目にはよくないせいだと思うが、ベビーカーに乗った赤ん坊までがサングラスをしているのには思わず笑ってしまう。このサングラススタイルが本当にさまになっているのだ。私たち東洋人がサングラスをするとヤクザにしか見えないのだが、フランス人はさすがに板についている。私もサングラスをしてさっそうと歩きたいが、遠近両用のサングラスがあるのかわからないし、きっとさまにならないと思ってやめた。

歩くと言えば、フランス人の歩き方は見事だ。背すじをぴっとし、長い足を伸ばし、金髪をなびかせながら歩く女性を見ると、う〜んそうか、ああやって歩くのか、と日頃の猫背、ちょこちょこ歩きの自分を反省し、そのときはマネをして歩くのだが、悲しいかな気がつくと元のちょこちょこ歩きに戻ってしまっている。

また、いかにもフランスだなあと感じるのは、特に土日の朝や、夕方にフランスパン(バゲット)を手に持って歩く人を多く見かけることだ。私も毎週末の朝は近所のパン店にバゲットやクロワッサンを買いに行く。店では袋に入れずちょうど手で持つ部分を紙で巻くだけで渡される。焼きたてのまだ温かいそのバゲットを片手に持って歩いてアパートに帰るときはちょっと幸せな気分になる。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。