俺は、監督にまた連絡をし、事務所を訪ねた。監督は浮かない顔をしながらも、俺のことを心配してくれた。

そして、

「得体の知れない通報者について、君はどう思ったか?」

と、いきなり聞いてきた。

俺は、ただ、「運命だから何とも思っていない」と、答えた。

「それは良かった。お互いが信頼したからこそ、良い作品に二つとも仕上がってきたことは、大きな勝利につながった。ただし、君が自分の罪を償い終わった今からが、我々の信頼関係構築の本当の一歩だと言っていいと思う。追う立場から追われる立場になりたい、と前に言っていたね。いい脚本が書き続けられれば、きっとなれるはずだ」

監督なりに俺を励ましてくれていたようだが、今はただ、映画の話だけをしたかった。監督からあれこれ学びたかった。なので、言いたいことだけ言った。映画作りの基本を学びたいとか、大きな資金をどうやって調達しているのかとか、良い配役を集めるためにどうやっているのかとか……。

監督は、何でも答えてくれた。そして、こう言った。

「お互いがこれからも良い関係になれるか、それともライバルになるのか、おもしろくなってきた」

その口調に、おこがましく何でも聞いたことが、監督には少し気に入らなかったのかと感じた。俺には、映画監督になる気はなかった。お互い、いい仕事をしてきた。この関係を確かなものにしたい、関係が気まずくなることだけは避けたい、と思った。

嬉しいことに、監督から、「また脚本を書いてほしい」と、言われた。

俺は、「必ず、いい脚本を書きます」と、言って真夏の街に帰っていった。