試合はハーフタイムへ

そんな中、重たい給水ボトルをてきぱきとメンバーに配る末広さんの冷静さは、海老沼さんと好対照ではある。

「足立、大磯東のトライだ。お前がコンバージョン、蹴れ」

キャプテンの言葉に、足立くんは無言で頷く。

「なごみてめぇ、馬鹿か」

タッチライン際からの窮屈なポジションにボールをセットする足立くんを見ながら、佐伯くんからは罵声も飛んだ。

「真ん中にトライしねぇから、足立先輩のキックが苦しくなるじゃんか」

あぁ、そういえば、という前田くんの飄々とした顔の隣で、石宮くんは思い詰めたような表情でグラウンドを見据えている。

「ケータくん。やってみたいよね、タックル」

佑子が声をかけると、石宮くんは正面から佑子の目を見つめた。その目の中にあるのは、決意なのか恐怖心なのか。

緑のグラウンドは、山のゆるやかな斜面を切り開いた場所にあり、ベンチサイドの逆側は小高い土手になっている。その上には、動画を撮影するマネージャーさんや、ゲームを見守る人たちが少なからずいる。その中に、せわしなく移動しながらシャッターを切るカメラマンもいた。

試合はハーフタイムに入る。前半は前田くんのトライの5点のみ。足立くんのコンバージョンは不発に終わった。十九人のメンバーが山本先輩の周りに集合し、全員がその口元を注視する。

「後半は大磯東のゲームにする。それでいいな、足立」

おそらくは内心の不安もあるはずだけれど、足立くんは山本先輩への視線をずらさないまま力強く頷いた。龍城ケ丘のフランカーがフッカーに回り、石宮くんがフランカー。ロックに寺島くん、前田くんの逆サイドのウィングに澤田くんが入る。スクラムハーフに佐伯くん。龍城ケ丘3年のスタンドオフが足立くんの肩を抱いた。

「どうせなら、大磯東のハーフ団にしてみたらどうだ。足立、スタンに入れ」

マウスガードを含みながら、佐伯くんの表情が蒼白になる。さっきまで、前田くんに軽口をたたいていたくせに。