ベラパミルとは

ボーン・ウイリアムズ分類のⅣ群に属するCaチャネル拮抗薬で、先発医薬品名はワソランⓇ錠になります。ベラパミルは血管平滑筋Caチャネルへの阻害作用は弱く、主に心臓のCaチャネルを阻害するため不整脈や狭心症など心臓に関連する疾患に利用されています。

心臓の自動的な電気発生源の洞結節や刺激伝導系の心房から心室への中継地点にある房室結節の細胞は、NaイオンやCaイオンを透過しやすく細胞内に入ってプラス寄りにするため、静止膜電位がもともと浅く-55mV程度になっています(他の場所は-90mV)。このような浅い電位では活動電位を起こすNaチャネルは既に閉じてしまっており、代わりにCaチャネルが開口したときに生じるCaイオンの細胞内流入で活動電位が発生する仕組みになっています(「ガイトン生理学」2018年)。

周辺に伝わってきた電位変化により静止膜電位が-90mVより浅くなるとNaチャネルの活性化ゲートが開き、細胞外にたくさんあるNaイオン(+)が一気に流入して細胞内をプラスにする脱分極が起こります(活動電位の発生)。

しかし、途中-55mVになった時点でそれまで開いていたNaチャネルの不活性化ゲートが閉じて、その時点からNaイオンは細胞内に入ってこなくなります。Naイオンの流入は一瞬の出来事と言えそうです。房室結節ではもともと静止膜電位が-55mVになっており不活性化ゲートがずっと閉じたままなので、Naチャネルが存在しても働きようがない状態になっているわけです(表1で両ゲートが開いているときのみNaイオンが移動できます)。

写真を拡大 [表1] Naチャネルのゲート種と開閉 出典元:ガイトン生理学原著第13版、エルゼビア・ジャパン、2018年

ベラパミルはもともとNaチャネルが働いていない洞結節や房室結節のCaチャネルを主に阻害してCaイオン流入による活動電位発生を抑えるもしくは遅らせる働きをしますので、適応症もそれらの存在場所に関連して「心房細動・粗動、発作性上室性頻拍」と心室由来の頻脈ではなく、房室結節より上の上室性頻脈への対応となっています。

心房細動では心房の電気発生頻度が350拍/分より多い状態で、もはや痙攣状態で血液を送れない状態になっていますが、電気信号自体はそのまま房室結節に届きます。

房室結節では心房からの電気的刺激が伝わってきてもすぐには反応できない時間帯があるため、350拍/分をそのまま受け入れられず、心室へ伝わるときは125~150拍/分に減少します。この程度でしたら心室は十分に収縮できますから致死的ではありませんが、心拍の間隔は不規則になることが多く、その動悸を不快に感じる人も多くなるでしょう。

そのときに使用されるのがレートコントロールで、心室の拍動数つまり心拍数を抑える療法になります。ベラパミルは心室への入口である房室結節を抑制しますので、心拍数調節つまりレートコントロールに利用されます。

リズムコントロールとレートコントロール

この2つの療法による臨床効果には差がないとされており、どちらを選択するかは患者さんのQOLに応じた個別対応が妥当であるとされます。

しかし、催不整脈作用などの副作用を考慮すると、より安全性の高いβ遮断薬(ビソプロロールやカルベジロール)やベラパミルを使うレートコントロールから始めるのが適切との話もあります。

まとめ:今回の2種類の頓用薬の使い分け

以上、長々と前置きをしましたが、ピルシカイニドはリズムコントロールの代表薬、ベラパミルはレートコントロールの代表薬だと考えると、患者さんにとって自覚症状の改善効果がより強く出てくるのは、リズム(心房調節)かレート(心室調節)かという二者択一の問題だったと考えられます。

結果的には、心拍数調整のレートコントロールの頓服薬ベラパミルがこの患者さんにとっては改善効果があったのでしょう。ただベラパミルのTmaxは約2時間で薬効はそれより早く出るでしょうが、頓用=即効性という点ではどうなのかな?という疑問は残ります(ちなみに今回学習会に参加してくれた薬剤師さんたちからはベラパミルの頓用処方例が多い、という話を得ました)。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。