そんなある日、ふと聞いていたラジオに玲奈はくぎ付けになります。事故で足を失い義足となった青年が、自分の体験談を語っていたのです。事故当時は立ち上がれないほど落ち込んだものの、今、自分は幸せだと言っている青年が眩しく感じられたのです。彼は、足を失ったことによって、家族の愛や自分の身体など、今あるものの有難みに気づかされたと言っています。そして事故前よりも成長した自分を感じていると。その青年は、まるで自分の今を受け入れ、イキイキとしているように思えたのです。

玲奈は、青年の心の強さに驚きを隠せませんでした。もちろん、すぐに自分に当てはめることはできません。私は彼と違う、私の場合は……。と心の中で、彼のようにはなれない自分を感じます。ただ、彼のことが、次の日もその次の日も頭から離れなくなっていったのです。

そんな玲奈が変わるきっかけとなったのは、散歩でした。家に閉じこもる毎日でしたが、少しだけ外に出て散歩をすることが、玲奈の日課となっていたのです。散歩をして自然に触れることで心は癒されました。それは、玲奈にとって唯一ほっとする時間だったのです。歩きながら青年のことを考えていると、それまで頑なだった自分の心に少しだけ変化を感じます。

なぜなら、自然が青年と同じことを伝えてくれているように感じたからです。どの木もありのまま堂々と立っている。誰にも気づかれずにひっそり咲く花。どれも美しく誇らしく見えました。それらを見ていると、なぜだか涙が込み上げてきました。自分は人と比べて欠点ばかり見て落ち込んでいたけれど、そんなことをして何になるんだろう。十分か十分じゃないかなんて誰が決めるんだろう。人だってそのままでいいんじゃないか。私だってこのままの自分でいいんじゃないか。

「このままの自分でいい」。そう言ってみると、心が少しだけ晴れるような気がしました。

玲奈は、その言葉を握りしめ、帰宅したのです。その後、玲奈は、ずっとやっていなかった部屋の掃除をします。まるで、これまでの自分に終わりを告げるかのように、いらないものをすべて捨てました。玲奈にとって、それは、新しい自分を宣言するかのような行為だったのです。部屋の雰囲気が変わると、玲奈の気持ちは少し落ち着きを取り戻します。そして久しぶりに晴れやかで満たされる気持ちを感じたのです。このままの自分で花を咲かせよう。誰でもなくこの自分を大切にしよう。一日一日自分を大切に過ごしていこう、玲奈はそう思ったのです。

自分に何かが欠けていると感じる時、兎角私たちは、その自分を変えようと躍起になることがあります。このツイン・エネルギーは、足りないものを数えるのではなく、まず、今あるものに焦点をあわせ、それがいかに豊かであるのかを思い出し、そのままで満ち足りることができることを伝えています。

その上で、変化を受け入れたり、自ら変化を起こしたりすることで、満ち足りたエネルギーが活気づくことも教えてくれています。変化は大きくなくとも、玲奈のように、少しばかり掃除をするといった些細なものでも、心に影響を与えることがあります。日常の中に、ささやかでも十分さを見いだし、変化しながら、イキイキすることを助けるのがこのツイン・エネルギーです。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『ツイン・エネルギー™ 静と動のバランスを整える16の考え方』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。