ムッキーちゃん

友人が遊びに来たときのことである。八朔(はっさく)とムッキーちゃんを手に私は言った。

「ムッキーちゃんって知っている?」

「えっ、何それ?」

「中学のクラスメートの工学博士が推奨している皮むき器」

笑って答えた。

工学博士の推奨とはどんなものかと彼女は私の手元を見つめた。白い蓋と黄色の身の部分からなる、10×2×2センチほどのプラスチックのムッキーちゃん。どちらかといえば100円ショップにありそうな風体である。

柑橘類を食べるとき、昔はまず外側の厚い皮に十文字に包丁で切りこみを入れ、皮をむいた。それから中の房は前歯で上の筋を取ってむいて食べるか、房の上を包丁で切り、むきやすい状態にしてお皿に並べて準備した。

このムッキーちゃんが来てからは、らくになった。まず蓋の内側についているツメで、厚皮にググッと下まで四本切れ目を入れる。さっと簡単にむける。次に房だが、これはムッキーちゃんの身の方にある溝に沿って走らせる。中についている刃が、房の上部にスーっと切れ目を入れてくれる。簡単に実を出すことができる。

「ねえ、これを使うと八朔をどれくらいでも食べちゃいそう」

友人は次々と房を平らげる。

「なんかさあ、能力はすごくあるけど全然いばっていないというか、本人が能力を自覚していないっていうか、この皮むき器は平凡な形なのに、なかなか優秀だわ」

ムッキーちゃんをべたぼめである。私も低い鼻をぴくぴくさせて言う。

「かわいいわりに、すごい文明の利器でしょ」

実はこれは九州の㈲ももやの製品である。博士はインターネットで偶然に買い、えらく気に入って、中学時代の級友たちとのメーリンググループに紹介してきたのである。

照れ屋でずんぐりむっくりの、中学生の博士を思い出す。3年のとき席が隣だったので、苦手な数学を教えてもらった。いばらないところが、ムッキーちゃんも博士も似ている。この皮むき器はお薦めである。1個430円だった。)