歌劇 『雪女の恋』

❖登場人物

雪女 こゆき

姉 ふぶき

里人 弥助

山の神

第七場

こゆきは弥助に駆け寄り、二人は抱き合う。

音楽「弥助と小夜」。

弥助: 弥助は 離さない
小夜を 離せない
こゆき: 小夜は 離さない
弥助を 離せない
弥助: お前は 弥助の女房 小夜
こゆきじゃない
今では里人 雪女じゃない
こゆき: わたしは 弥助の女房 小夜 
でも 小夜は こゆき 
こゆきは 里人じゃない 雪女
ここから消えて お山に帰る 
弥助: 離さない 弥助は 離せない 小夜を!

こゆきは弥助から離れて、舞台前に歩む。

こゆき: (独白)掟は掟 運命(さだめ)は変えられない
でも 心は心 掟に縛られない
心は 運命(さだ め)も 動かせる
弥助: (こゆきのそばに歩み寄る)小夜……
こゆき: 弥助 小夜は消える 運命(さだめ)だから
こゆきはお山に帰る 掟だから
弥助: 小夜が消える 運命(さだめ)であろうと 
こゆきはお山に帰る 掟であろうと 離さない 
こゆき: でも わたしと 弥助は 別れない
小夜は こゆき
こゆきとなっても 弥助の女房
弥助: わたしと お前は 別れない?
小夜は こゆき
こゆきとなっても 弥助の女房?
小夜…… 何を言っているんだ?
こゆき: 二人の心は 変わらない

こゆき・弥助: こゆきの 心に 弥助が いる
弥助の 心に こゆきが いる
心の中に 棲みついて心の中に いつも いる
こゆきと 弥助は 変わらず 夫婦(めおと)
運命(さだめ) 命を超えて 二人は 結ばれる
弥助: 小夜は こゆき
こゆきとなっても 弥助の女房
心の中に 棲みついて 
いつも いる 心の中に
こゆき: ああ 弥助 許しておくれ
お前さまを恋するあまり 人里へ降りてきた
こゆきを 許して
何もしてあげられなかった
ただ お前さまを 悲しませ
幼子(おさなご) を残したまま 消える
わがままな こゆきを 許しておくれ
弥助: こゆき 何を言う
お前を 愛するあまり冬のお山へ 入ったのは この 弥助
小夜に 身を変えて 嫁となり
いとし子まで 授けてくれたのは こゆき
弥助が こゆきの 心に 棲みついて
いつも そばにいるのなら
いとし子も こゆきの 胸に いつも ある 生きている
こゆき: ああ いとし子を もう一度
この腕に もう一度
やすらかな 寝顔を わたしに

こゆきは、舞台中央奥へ駆け込む。弥助も後を追う。

空舞台。弥助が再び姿を現す。

弥助: お山に こゆき
里には 弥助
離れ離れは 胸締めつける
雪が降れば こゆきを思う
星が光れば こゆきが浮かぶお山を見上げ 天仰ぐ 
星のすべてが こゆきに変わる
舞い散る雪が 弥助をつつむ

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。