「はい?」

俺が怯えながら返事をすると、

「驚かせてすまない」

と謝られた。意外と紳士的だ。もう少し青年を観察してみる。一見細身だが引き締まっていて、スポーツ選手か肉体労働者のお兄ちゃんといった風貌だ。身体的には完全に負けている。そして、彫りが深い端正な顔立ちは、どの世代の人からも好かれるだろう。「ハンサム」とか「美青年」という表現がしっくりくる。やや長めの髪も見苦しい感じはなく、大きな目と相まってエキゾチックだ。悔しいが顔の良さでも足元にも及ばない。タメ口で話しかけてきたが、歳は俺より下だろう。二十歳前後に見える。

「何か用ですか?」

そう尋ねながら、最近この男をどこかで見かけた気がしてきた。思い出そうとしていると、

「俺は先週の月曜と土曜、ここにいた四国犬だよ。あんたがここを通るのを見ていたんだ」

「シコクケン?」

「そういう種類の犬だ」

何秒か何十秒か、もしくは何分か過ぎた後、「おい」という青年の声でようやく我に返った。

「信じてないって顔だな」

「え、あ、いや」

言葉にならない言葉を返す。うーん。そう言われると、凛々しい顔立ちは、狼のような風貌のあの犬のイメージと合う。合うけれども……。今日はあまり飲んでいないしシラフだと思うけど実はけっこう酔っているのだろうか。

「そのシコクケンが、どうして人間の姿なんですか」

そもそもシコクケンなんて犬、知らないし聞いたことないけれど、本当に実在するのか?今すぐスマホを取り出して調べたい衝動をなんとか抑える。 

「犬のままじゃあんたと話すことができなかったからだよ。このあいだ話しかけたけれど、やっぱり通じなかった」

「はあ、なるほど。では、その犬がどうやって人間の姿になれたんですか?」

だんだん形ばかりの敬語で、バカにするような口調になってきているのが自分でも分かる。

「普通はなれない。ただ俺にはその力がある」

作り話にしてはもう一工夫欲しいところだ。彼は続ける。

「とはいえ望ましいことじゃない。正体を明かすことなどなおさらだ。狸や狐だって、正体がばれてしまうことはあっても、自ら明かす話など聞かないだろう?」

それは知らないが、俺は同じ口調で再び尋ねる。

「じゃあ、どうして僕に明かしてくれたんですか?」

意に介さず青年は答える。

「あんたに話があったからだよ」