「ナンバーエイトと9番のスクラムハーフは、ティームの真ん中に位置するのね。8番はフォワードのリーダー。ハーフはバックスへのボールの供給役で、身体が大きくなくても素早さや判断力が大切です」

小柄な佐伯くんは、きょろきょろと周りのメンバーに目を向ける。

「スタンドオフはよく司令塔って言われる。ティームの指揮者だね。センターはパスとタックルの専門家。ウィングは大外にいて、トライゲッターになってほしいから、スピードが大事」

前田くんと澤田くんが、互いを見る。足立くんは、胡坐をかいているそのつま先をじっと見つめ、表情は動かない。

「最後の砦になるのがフルバックだけど、攻撃では色々なオプションでキープレーヤーになることも多いよ。で、バックスはみんな、キックの技術を持っていた方がいい。足立くん、こんなところでどうかな」

一年生全員が足立くんを見つめる。足立くんはしばしの沈黙の後、そっと目を上げて佑子の方を見た。穏やかさを湛えた眼差し。

「先生、ありがとうございます。みんな、イメージつかめたよな」

一年生も全員が頷いたり表情を緩めたりする。

「オレも、みんなのポジション色々考えたりしてるけど、お前たちだって、思うこともあるだろうし」

足立くんは静かにそう言って、ふと立ち上がる。つられたように全員が立った。

「夏が来るぞ。生まれ変わらなくちゃいけない。グラウンドに立ったら、みんなもっとしゃべれ」

だって、と、足立くんは一瞬の間を置いた。

「秋までに、龍城のメンバーからポジション奪わなくちゃいけないんだからな」

そう言って、自在ほうきを手にする。身をひるがえして、マネさんが空っぽにした部室に向かう。

「おーし! リセットしようぜ」

それを追った保谷くんは、下腹に力を入れた、という表情だ。

「何とか、あと七人、集めようぜ!」

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。