「そうですか。では、私から今わかっていることをご説明します。MRIの写真をお見せしながら、説明しますからモニターを見ててください」

この間、和子さんは意識消失発作を何度も何度も繰り返すような心境になっていた。

急きょ入院して、病室で敬一さんから詳しく聞いて知ったことなのであるが、どうも肺ガンが原発である可能性が高くて、それが胸椎に転移しているらしかった。

「なんらかの原発性のガン(どうも肺ガン?らしい)、およびその骨転移による第7胸椎損傷、そして胸椎損傷が原因の対麻痺」

要点をいえば、そういうことになるらしい。

ガンになるなんて、和子さんにとってはまさに青天の霹靂であった。確かに検診は受けていなかった。

でもふだん咳ひとつ出ない丈夫な体と思っていた。

またここ数年、風邪もひいていなかったのだ。病院に来てからの8時間が、本当に1週間に感じられるくらい、とめどもない長さを感じた。でも、まだ自分に降りかかったことのように思えない自分がいて、意識消失発作を起こしそうであった。

ひとまずは脊髄の除圧が必要であるとの判断から、整形外科で入院し緊急手術をすることになった。森医師が主治医となり、手術は即日行われた。術後の経過は良好で、痛みも硬膜外麻酔が効いていてあまり強くなかった。下肢のしびれは軽くなったようで、そのことは和子さんを勇気づけた。

術後の経過は良好で、硬膜外カテーテルからの麻酔薬の持続注入で痛みのコントロールをされたことで、術後8日目からは、コルセットを着用してベッドで座ることもできるようになった。

それから立てるようにもなり、またリハビリで歩行訓練ができるようになっていった。

15日を経過したところで、リハビリ室での杖歩行は少しできるようになっていた。入院18日目で森医師からの紹介で呼吸器内科に転科することになり、主治医が牧野医師となった。

呼吸器内科の病室に移ってから、敬一さんは看護師さんを通じて牧野医師に呼ばれ、和子さんを看病した帰りに呼吸器内科の外来診察室にいる牧野医師を訪ねた。

「先生、遅くなりました。田中です」

「どうぞ、さあそこに座ってください」

牧野医師は丁寧に椅子を寄せて、敬一さんににこやかに一礼した。

ワンポイント解説

硬膜外麻酔(こうまくがいますい)

脊椎(背骨)の中にある脊髄の近くまで針を刺し、その中にカテーテル(細いチューブ)を挿入して、脊髄を包んでいる硬膜の外側(硬膜外腔)に留置し、そこから麻酔薬を注入することによって痛みを軽減させる麻酔方法。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『改訂版「死に方」教本』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。