こういう瞬間に水滴に付着してウイルスが空中に飛散することを防ぐ、いわゆる『咳エチケット』は意味があります。ですから、マスクはある程度の数が手元にあれば足り、慌ててマスクを買いに走らなくても良いのです。ご安心ください。

これまで見てきたように、感染してもすぐには自覚症状が出ないので、新型コロナウイルスに感染している人でも支障なく元気に外出し、活動することができます。これが厄介なのです。無意識のうちにウイルスを撒き散らしてしまう可能性が高いからです。

飛沫感染も、結局は接触感染に帰結するのですから、『咳エチケット』さえ守っていれば、目・鼻・口を触る前の手洗いが徹底できれば、原理的には感染は拡大しない筈です。しかし、『咳エチケット』や手洗いの徹底は、実は容易なことではありません。感染の自覚のない人にとっては、マスク着用は鬱陶しいことでしょうし、アルコール消毒液が手に入りにくくなると、したい時に消毒ができません。

最近になって、ウイルスが高密度に浮遊している密閉された空間に長時間滞在すると感染するエアロゾル感染という、新しい感染経路の存在が明らかになってきました。ですから、いわゆる『三密』、即ち密閉・密集・密接という3要件を備えた場所に行かないことで感染を防ぐために緊急事態宣言を発令させて頂いたという次第です。

実は、新型コロナウイルスのうち大きくて重いものは、多くは3フィート(約90cm)の短い距離で、遠くに飛んでも6フィート(約1.8m)までの距離で落下することが分かっています。こういう知見に基づいて、他人との距離を少なくとも1mは空けて頂きたいと、お願いしているのです。

最近では,ウイルスが高い密度で浮遊している密閉空間に長時間対座することで感染するというエアロゾル感染も確認されていますが、こういう感染を防ぐためにも、一定程度の間隔を空けるという『ソーシャル・ディスタンシング』が有効です。

また、私は中小零細企業の方々、そしてフリーランスで働いている方々の経済的な損失にも心を痛めて、頭を悩ませています。今回改正した特別措置法の下では、講じうる措置は自粛の要請に留まり禁止ではありませんし、罰則もありません。しかし、国のリーダーが要請したことの重さに鑑み、客観的でわかりやすい基準を前提としつつも、国の責任において、経済的な損失を補償するという決断をしました。ご安心下さい。

この国難に際して、是非とも国民の皆様のご理解とご協力を賜りたいと思います。宜しくお願いします」

以上を要約すると、次のようになる。

① この戦いは長期戦になる。経済的な効率を犠牲にしても健康面の安全を確保することを優先したい。そのためには一定程度の行動の自制を求めたい。

② 一番大切なのは医療崩壊を防ぐことだ。病院のベッドが新型コロナウイルス患者で埋まってしまうと、他の疾病で入院が必要な患者の受け入れができなくなる。また、同じ新型コロナウイルス患者の中でも、軽症患者でベッドが埋まってしまうと重症患者の受け入れができなくなり、助かる命も助けられなくなる。

③ マスクは感染防止に効果がないから、慌てて買いに走る必要はない。「咳エチケット」だけに用途を絞れば、需給のひっ迫は解消し、本来必要なN95などの医療用マスクの製造により感染を避けるようになる。

④ 著しい経済的損失を被った中小零細企業の方々やフリーランスの方々には、生活困窮対策として、できるだけ早期に現金給付を行う。同時に生活再建を支援するため無担保・無期限の低利融資も行う。また、営業自粛を要請された業種に対しては、適正に算出された金額の営業補償を行う。

皆さん、今必要なのは小手先の具体策を羅列することではありません。危機の本質を正しく伝えることです。そして政府が不可避な損失を補償することで人心の安定を図ることです。皆さんも、一部メディアによる扇動的な報道に惑わされずに事態を見極め、腰を据えて冷静に行動しようではありませんか。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『未来を拓く洞察力 真に自立した現代人になるために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。