いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~

はたから見たら監督と脚本家というのは、奇妙な関係だと思う。

どちらが主体で話を作るのか。俺は監督がいい人だと思った。いろいろな意味で、意見を言う気にはなれなかったのは、俺は立場がそうだからというより、監督がいい人だからということにつきた。

おこがましいことを言うつもりもなかった。現場では監督に全てを任せて、俺はただうなずいていた。

そういう感じで、約七か月後に映画は完成した。俺や家族(両親・妹夫妻)は、試写会を楽しみにしていた。何せ、一流俳優が舞台挨拶に来たのだ。

観客で満員の会場で監督やアナウンサーと談笑して、俺の映画について語っていた。お互いに満足そうに映画の出来について、顔をゆるませアピールしていた。

監督は客席の俺と目が合うと、ウインクをし、アナウンサーに何か耳打ちをした。そして、俺は急に言われた。舞台に上がるように。

驚いた。ただ体が緊張したことしか覚えていない。頭は真っ白だった。声は震え、なかなか快活にしゃべれなかった。

「お話はおもしろかったですか?」

などと、大したことは言えなかった。だが、俺は脚本家としてデビューしたのだ。最高の気分だった。家族も、初めて俺を一人前の男として認めた瞬間だった。生き方が変わったそのときに願った。

『お願いだから、この先悪いことが起こりませんように』

絶頂からどん底に落ちた話は、いくらでもある。毎日が一番輝いていたい。映画がヒットすることを願った。

そして、そのとおりになった。公開後、一か月で観客動員数一位に輝いたのだ。俺は、大変いい気持ちになった。脚本も小説化され、俺に印税が入ることになった。