仲間たち

あの日、私はアル中の施設に入所して、ひとまずは身をせる場所を与えられたことに感謝した。

それにしても、不透明とうめいな先行きに対して不安をおぼえずにはいられなかった。私は過去の一切いっさいを失い、未来の一切に絶望を見た。

それまでどんな集団生活にも耐えられなかった自分が、今さらこの収容生活にえていけるものとは、とてもおもえなかった。私は忍び寄る禁断症状の不安にられながら、施設の女医じょいさんに

「私は自分がアル中であるとは思えないのです」

と問い掛かけた。

すると、彼女はこともげに、

「ええ、アル中は否認ひにんの病気と言って、必ず自分はアル中ではないとうのです。世界中で自分がアル中だとおもっているアル中など一人もいませんよ」

と答えた。私が

「では、私が自分の力で酒をめられなかったのはなぜでしょう」

と聞くと、彼女は、

「あなたが自分の力で、アルコールをめられたなら、あなたは病気ではありません。められないから、あなたは病気なのです」

と答えた。私は少しく当惑とうわくして、間を置いてから、

「これから私はどうなるのですか」

と聞いた。彼女はちょっと私の顔を見ていたが、

「先のことをかんがえたら、私だって不安になります。先へ先へと突きめていけば、どのみち、死ぬことに行き着くのですからね。しかし、あなたは少なくとも、今、このときは生きているのです。きるとは、今、この時をきることなのです。今日一日ですよ。先のことなど考えないで、今日きょう一日をひたすら飲まないで生きるのです。そういう一日一日を積みかさねていけば、いずれ、あなたはこの病気から回復かいふくしている自分に気づくことになるでしょう」

と言いった。