気がつくと、露天風呂に裸で浮かんでいる自分がいた。その夜、その露天風呂ぶろに満天の星空を仰いで夜をかした。そして、その日からというもの、私はKと共にクラと名の付く土地をたびしてまわった。

入倉、蔵内、戸倉、……と。それは孤独にみ疲れた私の人生で、最も楽しい時期となった。Kはすでに人生の大半たいはんをやりくして、あますところは死を求めて、何かしら未知の世界におもむこうとしていた。

彼はそれを私のクラの世界に見出みいだし、私と共にしてくれたが、彼の命はほど無くしてついえたのだった。Kを失くしたあとの私の心象風景は、が沈むように亡びの影を帯びていった。私は彼の幻影を追うように、人里離れた山奥をたずねて回った。原始の山野は悠久ゆうきゅうの水の流れと共に、人知れず息づいていた。

私はそんな源流のせせらぎをながめて、時の経つのを忘れた。谷川の流れはみきって、白銀の川底から光り輝いているところもあれば、深緑ふかみどり色の淵に淀んで、底知れぬ不気味さを秘め隠しているところもあった。私は原始林のそんな狭間はざまで、自然の息吹に抱かれて安らいだこともあれば、黒いちょうの群れが行く手をさえぎって飛びかうのを、不吉な気持ちでながめたこともあった。

やがて、そんな山野が、暑さでちぢれた夏草におおわれる頃、私の体も夏負けして酒にあえいだ。そして、やつれたままその秋をぎ越して冬を迎え、Kの死から一年ほどして、私もまたアル中の末期症状にいたり、風雪の荒野をさ迷い、死の淵にひんしていったのだった。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『 追憶 ~あるアル中患者の手記~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。