翌日の早朝、カルロスのいた町から百キロも離れた景色のよい海岸を散歩していた人が、ぬれた毛布の包みを見つけ、警察に知らせた。

中に入っていたのは、海に投げこまれたカルロスで、死んでいるように見えたが、奇跡的に心臓が動いていた。病院に運ばれ、半月ほどかかって、ようやく口がきけるまでになった。すると、待っていたように二人の訪問者があった。

「元気になったようだな」

それは、一年以上前からカルロスたち、麻薬ギャングを密かに捜査している刑事だった。一人は、警察官になったばかりの若いフランシスコだった。カルロスの土気色でやせた顔はまるで老人のようで、フランシスコより二歳年下とはとうてい思えなかった。

フランシスコの上役らしい年配の刑事が言った。

「仲間割れで海に放りこまれたのか? お前たちのやることは、どこまで残酷なんだ。カルロス。ひとつ取引しないか。裏町にあるお前たちのかくれ家は分かっているんだ。空港の近くにもあるだろう。その場所を教えてくれないか。教えてくれたら、お前の命は私たちが必ず守ってやる」

カルロスは迷った。教えたことが分かれば、仕返しを受けるにちがいない。警察が守ってくれても、麻薬ギャングから狙われたら命はないだろう。しかし、自分を殺そうとした元の仲間に対する憎しみは、仕返しを受ける恐怖よりも大きかった。

「場所を教えます」

カルロスは二人の刑事に答えた。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『ヘロイーナの物語』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。