第一部

そこで、ふさわしい相手を見つけるべく、あちらこちらと知り合いに声をかけ探していたところ、同じ親戚筋で玉島の阿賀崎に「忠左衛門」という結婚相手にふさわしい適齢期の男子がいて、話はまとめられた。当時は、親同士で決められた縁談には従わざるを得ない。そんな風潮が当たり前な時代で、菊は従順にその話を受け入れた。

そして、若いカップル誕生となった。忠左衛門は陽気で快活な男だったらしい。やがて当家の家業も立派に継いでくれることだろう。みんなそういう期待を持ち、彼もそれに応えるべく仕事を覚えることに精を出した。そして、事は順調に運んでいるように見えた。

しかし、調子のよいところにはとかく魔が差すことも多い。妻の菊が、一年後はやり病にかかって急逝したのである。生来食が細く、ずっと白米ばかり食べ続けたために脚気体質となり、病弱なことが影響したようであった。

「折角、いい婿が来てくれて喜んでいたのに、こんな残念なことはない。でも、なぜうちの子は、みんな早死するんだろう」

佐治衛門はたいそう悔やんだ。一方の半の方も、自らの血筋にかかわることだけに重い責任を感じてお百度参りで願掛けをするが、みるべき成果もない。気落ちしたのは忠左衛門も同じである。

しばらくは、いままで通り家業の手伝いに励んでいたが、ある時、思いつめたように佐治衛門の所にやってきて言った。

「父上、俺は、もう阿賀崎の実家に帰らせてもらいたいんじゃ。家にはもうひとり民さんがいるからの、別の婿さんをもらったらええと思う」

相当考えあぐねての言葉であった。佐治衛門は慌てた。

「折角いい人を婿取りして、仕事まで覚えてもらっている。実家に帰すのは誠にもったいないし、何とか思いとどまってもらう方法はないものだろうか」

佐治衛門は半と話し合った。

「何とか思いとどまらせたい」

半の気持ちも同じだった。その時二人の脳裏には、姉より二つ年下でまだ十五歳になったばかりの民と再婚させる案が浮かんだのである。

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『高梁川』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。