悲の断片

第二節 友の死

Kを失って、私は独り孤独の中に取り(のこ)された。

(さび)しいでしょうね。いつも一緒(いっしょ)だったのに」

すれ違う人はそんな言葉を私に投げ()けていった。しかし、私にはそれがむしろ思い()けないことだった。私はそれまで自分が彼に友情を(いだ)いていたことを意識していなかった。私は自分が彼から離れて、孤独を(たも)っているように思っていたのだ。

しかし、それが間違(まちが)いだったことは、時と共に明らかになっていった。振り(はら)っても、振り払っても、彼の思い出ばかりが(なつ)かしく思い出されて、こみ上げてくる(さび)しさをどうすることもできなかった。

それから一年余り、私は話す相手もなく、彼と遊んだ思い出の場所を(ひと)(たず)ねて回った。そして、所在無(しょざいな)く酒に(ひた)った。孤独の酒は、とても冷たくて、(にが)かった。いっときそれが私を(なぐさ)めることがあったにせよ、死に向かった流れであることを()めようとはしなかった。

私は酒と共に()み疲れ、果ては住む家を失い、亡霊のように田舎の山野をさ迷い、雪深い山陰(さんいん)の冬を過ぎ越していった。寒さは一入(ひとしお)で、日に一度は湯原の露天風呂に通った。しかし、湯に()かっても、かつてのように暖まることはもうなかった。それほど身も心も(しん)まで(こご)えていたのだろうか。

そして、春になって、行き倒れになるところを助けられ、大阪のアル中の施設に(あず)けられた。あれから回復の道を辿(たど)って七年、私はやっとKの墓参(はかまい)りに行けるまでになった。