雑草の生態的特徴

雑草魂という言葉がありますが、すべての雑草は乾燥、低温、貧栄養土壌などの劣悪な環境に耐えることができるのでしょうか。また、同じ雑草が水田、畑、芝地など、どこでも生育できるのでしょうか。

実は、水田に生育する雑草の多くは水田や沼地のような湿地でしか生きて行くことができませんし、芝生に生育する雑草も明るく開けた場所でしか生きて行くことができません。どこにでも生育できるオールラウンドな雑草は一種類もありません。それぞれの雑草はそれぞれ決まった場所にしか生育できません。

これを植物の空間的な住み分けと呼んでおり、それには雑草の生き方、つまり生態的な特性が関係しています。

まず、水田や畑に生育する耕地雑草の生態的な特性を考えてみましょう。農地の最大の特徴は耕耘による頻繁な土壌撹乱です。土壌撹乱は植物にとってどのような意味を持っているのでしょうか。ハツカダイコン(二十日大根)を例に挙げて説明します。ハツカダイコンを字義通りに解釈すれば、播種(はしゅ)から20日後に収穫できる作物のことであり、同じ畑に生育する雑草も発芽から20日後に刈り取られることになります。

ここで、注意して頂きたいのが、ハツカダイコンの播種日と雑草種子の発芽日を同じにしていることです。なぜ同じなのかを説明します。ハツカダイコンの種子を蒔くためには、畑を耕さなければなりません。土壌が撹乱されると、それまで土中で休眠状態にあった雑草種子が適度な酸素、水分、場合によっては光条件下に置かれるようになり、休眠が解除されて発芽します。つまり、土壌が耕耘されることにより雑草種子の発芽スイッチがオンになります。これが農地において土壌の耕耘時期と雑草の発芽時期が同調する理由です。

話を元に戻しますが、ある植物がハツカダイコン畑の雑草として生き残っていくためには、子孫となる種子を残さなければなりません。そのためには刈り取られる前に結実して種子を地面に落とす必要があります。

もし収穫日まで結実していなければ(ハツカダイコン畑では播種の20日後まで)、その植物は種子を落とす前にハツカダイコンと一緒に刈り取られてしまい、結果的にハツカダイコン畑に子孫を残すことができなくなります。このことは作物よりも短期間で種子を形成する植物だけが農耕地雑草になり得ることを示しており、この性質が種子の早産性と呼ばれるものです。

写真に示すスベリヒユ科のスベリヒユは代表的な早産性の畑雑草で、関東地方では、出芽からわずか2ヶ月弱で結実することが知られています。

[写真]スベリヒユ(Portulaca oleracea L.)(小笠原)

そして土壌表面に落下した雑草種子は耕耘とともに土中に混ぜ込まれ、土壌水分、地温、酸素濃度などによって休眠状態に入り、最終的に埋土種子集団(Seed bank)が形成されます。

しかも雑草種子は埋土種子集団から一斉に発芽するのではなく、条件の揃った種子だけしか発芽しません。雑草が次から次に出てくるのは埋土種子集団と種子の休眠性によるもので、これも雑草の大きな特徴です。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『 雑草害~誰も気づいていない身近な雑草問題~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。