雑草の定義

もう一つの定義は「絶えず外的な干渉や生存地の破壊が加えられていないと、その生活が成立・存続できない一群の植物」といった生物学的な特性に基づいた定義です。

生存地の破壊、すなわち土壌撹乱が自然に発生する場所は土砂崩れの頻発する崖や傾斜地であり、非自然的に発生する場所が作物を育てるために絶えず土壌が耕されている農地です。したがって、農地は人によって改変された人工的な空間ですから、雑草の自然発生的な起源は野山といえます。

図に示すように、山の植生は標高が上がるに伴い変化し、樹木が生育できる標高の限界が森林限界と呼ばれ、それを超えると草本植物だけがかろうじて生育できる草付きと呼ばれる植生帯に移行します。そしてさらにその上部は草木の全く育たない岩だらけのガレ場になります。

写真を拡大 [図]農耕地雑草の起源(小笠原)

英語のアルプ(Alp)は高山帯の草付きに作られた夏期限定の放牧場のことで、その複数形がアルプス(Alps)です。また、北アルプス奥穂高岳の涸沢カールのように、高山には、圏谷(けんこく)(カール)と呼ばれる氷河でお椀状に削られた跡があります。圏谷では頻繁に土砂崩れが起こり、ここに生育するチングルマやウサギギクなどの高山植物が土壌撹乱に適応した植物、つまり雑草の起源になります。

ただし、この定義はあくまでも土壌が絶えず撹乱されている農耕地に生育する雑草を対象としたもので、耕耘が行われない芝生や河川堤防に生育する雑草には当てはまりません。

これまで述べた二つの定義の他にも、ちょっと変わった定義があります。それは米国の思想家のエマーソン(Ralph Waldo Emerson:1803年~1882年)の言葉で、「雑草とは何か? それはその美点がまだ発見されていない植物」というものです。

確かに、いろんな雑草が無造作に生えていると汚く見えますが、オヘビイチゴやオオイヌノフグリなどの小型の雑草が辺り一面に生えている場所は綺麗です。また、後述するように美点とまでは行かないにしろ、雑草にはさまざまな有用性があり、エマーソンの定義はけだし名言といえます。

これまで雑草といえば農業であり、水田や畑だけを対象にしていれば事足りていましたが、近頃は、再三、述べるように道路、河川、公園、ゴルフ場、鉄道など、むしろ公共場面で雑草は大きな問題になっています。

雑草が問題になっているいずれの場所も身近な生活圏であることから、雑草を人の役に立たない植物や土壌撹乱に適応した植物と定義するよりも、人の生活圏内に非意図的に生育する植物を雑草とするといった定義の方が良いのかも知れません。