「お前、刀使えるんか?」

「いや、そんなには……」

「お前は……」

「おれも、あまりできない」

三人は口々に言いながら、新之助の後をついて行く。町角を曲がって、しばらく歩くと、田んぼや畑が続いていた。その中を通りながら、新之助は言う。

「おれは、そこの道場で、ま、上の方だ。お前たち黙って見ていろよ」

「ほんとかな?」

と三人のうち太った木村三郎という男が言った。この男は気がいいが、すぐに挫折してしまう悪い癖がある。すると横に並んでいた立花文之助という男が言った。

「そう言えば、新之助は、剣が強かったようだ」

この男は普段おとなしい。あまり口は利かない。だが、本当に言わなければならない時は、口は達者になる。とにかく三人にくっついて歩いているのだ。

「そうか? おれはまだ見たことがないよ」

高之進が言う。

畑が過ぎたところに、古ぼけた道場があった。

三人は看板を見上げた。風雲流と書かれてある。その看板もみすぼらしい。中に入って行くと、しんとしている。

「ほんとにここか?」

「おう」

新之助の声がこだまのように聞こえる。

「今はな、農家の男も町民も仕事で忙しい! だから、七ツ(午後四時)過ぎになると、人が集まるのだ」

「へえー、お前一人か?」

新之助は、支度をしている。胴を付けて、竹刀を掴んでいる。

そのころになると、中から普通の爺さんが出てきた。爺さんは、真ん中の席に座ると、新之助を見ている。

「今日は相手がいないから、静香とやってほしい」

「はっ」

新之助は片膝をついて、頭を下げる。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『紅葵』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。