タシス向けテラー型スクラバープロジェクト

最も印象に残っているのはバンクーバー島のタシスにあるパルプ工場での工場排気ガスに含まれている有毒ガス除去装置の設計から組み立て、現場での据え付けなどの大型プロジェクトだった。この基本設計はボストンの近郊にある著名なテラー博士が主宰するエンジニアリング会社によるものだった。

この排気ガスは硫化水素の悪臭が強く、カナダに多く散在するパルプ工場のある町に入るとその臭いでその存在がわかる。このプロジェクトもタシスの住民の苦情から計画されたものだった。構造物の強度設計と製作は政裕の担当になった。

何度もテラー博士の事務所を訪問し担当者と協議を重ねた。主要部品の強度確認のためにモデルを作成し、トロント大学に試験を依頼した。この設備の使用条件は酸化性の強い塩素化合物の液体が散布され、内圧は水柱六十センチの減圧、温度はマイナス十五度からプラス五十度だった。

構造物FRPの主原料である樹脂はこの全条件に耐えるものでなければならない。組み立て後の大きさは幅二十メートル、長さ四十メートル、高さ十五メートルの構造物だった。こんな大型製品の設計の経験はなかったが設計した部分ごとに建築技師に検証を依頼して安全率を確認した。二十数個に分割した大型部品を貨車でトロントから大陸を横断してバンクーバーのフレーザー河口にある港の借り受けていた岸壁まで輸送し、イタリア人で編成されたチームで約三か月掛かって組み立てた。

完成検査は発注元の立ち合いで入念に行われた。これを据え付け現地までの運送が大仕事だった。地元バンクーバーの専門業者に委託したがそのような大型の設備などの移動に専門業者がいることは政裕にとって新しい発見でもあった。大型の筏船に乗せ引航しバンクーバー島を回り太平洋に出て、島の東側中央部に位置するパルプ工場の岸壁に陸揚げ、建設されていたプラットフォームの上に据え付けるのがその業者の仕事だった。デジタル制御された大型油圧ジャッキやクレーンなどを使い難なくやってのけた。

据え付けを完成し試運転は基本設計のテラーカンパニーから担当者が立ち会い、化学的性能の確認のため時間をかけ濃度測定などを行っていた。大型ファンでガス出口側から大量のフルーガスが吸引され稼働が始まる。政裕は運転操作開始後、強度上の不具合が発生しないか、聴診器具を使って亀裂音が発生するかを検知した。かなり大きな振動は感じられたが異常は起きなかった。

政裕は半年以上かかった任務を無事終了、滞在したバンクーバーの宿を引き払い久しぶりにトロントの我が家に帰った。この製品の引き伸ばした写真を額に入れて政裕の自宅オフィスに今でも掛けてある。

その後、タシスの設備と類似のテラー脱硫装置をカナダ全土で数件受注し政裕のプロジェクトが再び組まれた。前回の経験が役に立ち設計から完成に至る全工程が短期間且つ低コストで完成できた。アメリカでもオクラホマとテキサスでこれらとは違ったタイプの大型クーリングタワーの仕事を請け負い製作から据え付けまでのプロジェクトが組まれた。そのほか全く異なったタイプで使用条件が極端に厳しい設備の設計と据え付けの仕事が続いて政裕は多忙な日々を送った。

ミプラコの大型機器製作の評判が北米中に広がっていった。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『波濤を越えて』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。