ロシアでは日本からの新興宗教団体の役員と接触し熱心に加入を勧められ、宗教の存在意義を真剣に考えてもみた。いずれもその時は本名の山野辺雄造のままであった。

やがて、アメリカ合衆国に入り、西海岸でアメリカ映画製作の下働きで糊口ここうしのぐ生活に入った。久しぶりの映画の肌触りであった。

その時出会ったのがP社のハマーシュタインだった。ハマーシュタインの仕事ぶりは涯の情熱に火をつけた。涯のこれまでの経歴に目を付けた会社は涯に活劇映画の脚本を書かせた。それに目を通したハマーシュタインが涯を呼びつけた。

「なかなかに奇抜なストーリーで気に入った。特に東南アジアを舞台にしているところがいかにも目の付け所がよい。作品にしようと思うので、監督らとロケハンに行ってもらいたい」

涯は希望通りの東南アジアを舞台とした活劇映画の総括責任者として名乗りを上げた。

一九五五年のインドネシアのバンドンでの第一回アジア・アフリカ会議の開催をストーリーの発端に持ってきて、十年後の第二回開催がなぜ水泡に帰したかの謎をもとに、アメリカ、ソ連両陣営の冷戦時の確執かくしつ、非同盟諸国のそろわぬ足並み、アジア・アフリカの新興独立国の台頭を許さぬ、ヨーロッパの旧宗主国の妨害工作などをベースにしたスパイアクションものである。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『マルト神群』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。