次に誤嚥の発生という問題もある。不顕性といって、見た目にはむせたりしていないのに、食道を逆流してきた胃液や内容物を少しずつ誤嚥してしまうことがあり、はっきり状況が見えない分、要注意だ。

肺炎を起こした際、専門職でもわからないことがあるので、家族が気づくのは至難の業だ。そして長期臥床に伴う褥瘡(じよくそう)(いわゆる床ずれ)の発生およびその治療、あるいはその発生予防などの取り組みも、家族に負担がかかることになる。こまめな体位交換の方法、清拭の実施方法、あるいはエアマットや円座の適切な使用方法など、正しい知識も必要となってくる。

さらには、肺炎や褥瘡からの感染などが悪化して治療に反応しなくなった場合、いわゆる終末期の際の胃瘻からの栄養剤の注入の中止についての判断は、最も難しい選択ではないかと思われる。

積極的な栄養管理の方法を選択したプロセスなどもあり、状態が悪くなったからといって簡単に胃瘻からの栄養を中止する選択をすることは、実際に非常に難しい。その選択によって、胃瘻が施されている人は確実に死に至ることになる。医療者がその選択を決めるケースは稀であり、家族に任されることが多い。まさに、究極の選択を迫られることになる。

(2)施設入所を選択する場合

施設入所を選択したことで、実際の介護技術の取得の必要性は数少なくなるかもしれないが、心理的負担は、自宅療養と大きな差がないと思われる。

まずは、胃瘻が増設されている人を入所させてくれる施設を探すのが一苦労である。胃瘻には先に述べたようなさまざまなトラブルがあると同時に、胃瘻の交換は基本的に医師が行う処置である。医師が常時サポートしてくれる施設というのはかなり少数であるし、サポートしてくれていたとしても胃瘻の交換は入院で行うところも少なくない。

実は、施設探しが大変なのである。次に肺炎などを発症した場合、施設内で治療が行われるところもあるが、現在のところ少ないと言わざるを得ない。これも病院へ入院し、治療がある程度うまくいったところで施設に戻ってくるという処遇が、一般的であるといってよい。

もちろん、終末期に至った場合においても同様である。施設内看取りができない場合もある。具体的には医師のサポートが十分ではなく、入所者が病院に転院の上で亡くなる施設が多いのも事実である。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『改訂版「死に方」教本』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。