コロナの荒波に傷つけられる人々…

診察後、処方箋と次の予約をとるまでの間、病院の待合室のテレビを見ていた。

「本日の感染者数九十五名、増加傾向」

日に日に増える感染者数……。右肩上がりのグラフを見せられると余計に不安になった。神隠しにあったように、人ひとりいない病院に自分ひとり。沈黙を破るように大きな液晶のテレビが中央に置かれ、昼のニュースが途切れなくコロナ関連の影響を報じている。

「飲食業の倒産件数が増加」

神田で百年続いた寿司店が、昨日をもって閉店したことを報じていた。

「短期雇用の雇い止め増加」

飲食店の継続が厳しいため、アルバイトがなくなり、学費を払えないため学校を辞めざるをえなくなった大学生、昼と夜のアルバイトを掛け持ちしていたシングルマザーの女性がどちらも仕事を失ったことを伝えていた。コロナの荒波に揉まれた人々の傷の大きさに胸が痛む。

自分が美容学校時代にこんな状況にあっていたら、今みたいにはなれていなかった。イタリア料理のキッチンでバイトして生活費を稼いでいたあの頃。夕飯の賄いで食費がういて、腹いっぱい食べられて助かったものだ。レストランは、食材を仕入れても、売れなければ捨てなければならないし、食材を十分に用意しなければ料理を出せないから、今のようにお客さんが来ないまま店を空けていたらロスだ。そんな状態で続けるのも限界がある。

「お待たせしましたー」

鈍い痛みの残る腰をもち上げて、窓口に向かった。医療事務の女性は、ブルーのマスクを深く顔に覆い、フェイスシールドをその上に、ビニールの手袋をつけた完全防備で処方箋を渡した。それを受け取って病院の扉を開けて外に出ると、どんよりとしたグレーがかった雲が空を覆っていた。その雲が途切れないか、太陽が顔を出さないかと、しばらく空を眺め続けた。

翌朝九時に店に入り、フロアーのモップがけとテーブルの消毒を済ませた。レッスンの前に予約台帳を開いた。三十分刻みにひかれた線の間はブランクだ。パソコンをあけてネットでの予約を確認したが新着はなかった。スマホに新着メッセージが届いたのでチェックするとフィリピンの英会話の先生だった。

「ゴメンナサイ、キョウノレッスンヲ、リスケサセテモラエマスカ?」

 またキャンセルだ。予約がキャンセルになることには慣れている。自分も早朝に予約が突然入ってリスケさせてもらっていたから、お互いさまだ。

「ノープロブレム」

昨日の復習をするために早めに店に来たが、英会話がなくなると、朝の時間が長くなった。