タックル寸前で立ち止まってしまい…「先生、オレ、ダメかも」

高校生にとって、三年間という年月は重みのある時間かもしれない。あの頃、確かに遠い未来のことなんて考えることさえできなかった。ただ、勇気がなければ何も変わらない。

「ね。落ち込む必要なんてない。石宮くんの、自分なりの一歩を踏み出してみれば、それでいいんじゃないかな」

「先生、怒らないんだね。頑張れって、言わないんだね」

「ん？　そう思った？」

「情けないぞ、って、言われるかと思ってた」

「そんなこと、言わないよ。だって」

「オレ、ムリだって思ってた。まだ今も、ムリって思ってる」

「そう、なんだ」

「人間にぶち当たるなんて、コワいじゃん」

奥歯を噛みしめている石宮くんに、少しためらいながら、佑子は言ってみた。その言葉が彼に、どう響くのかは、何の確信もない。

「いっそ、思い切ってタックル屋を目指してみるっていうのは？」

石宮くんの目がくるりと佑子の方に向き直る。今度は、ぽかんとあごの力が抜けて口が開いた。

「人間じゃなきゃ、思い切りできるかな」

高校時代、基たちはグラウンドの端にある松の木に体操用のマットを巻きつけてタックル練習をしていたことがあった。もちろん、松の木に勝てるはずもないから、姿勢や踏み込みの練習だったけれど。

そのマットも、それをくくりつけるための柔道の帯も、無許可で体育倉庫から持ち出したのがバレて、大目玉を食らっていた。

石宮くんは小さく頷いて、そっと立ち上がる。彼の心に何が宿ったのかは分からない。

でも、もううつむいてはいなかった。