第二章 希望

「それで先生、図書室の鍵をお借りしたいのですが」

「もう開いてるぞ。斉藤が職員室に来る十分くらい前だったかな、朝倉(あさくら)が持っていった」

「え、結花(ゆか)が? あいつ早いなあ」

達也は職員室をあとにした。二階の奥にある図書室では結花が問題集を開いてノートに答えを書きこんでいる。達也を見ると、意外そうな表情でその手を止めた。

「あれ? 達也くん、どうしたの?」

達也のクラスメイトであり、女子バスケ部のキャプテンだった結花は、引退後もショートカットのスポーツ少女の雰囲気は変わらない。屈託なく明るい性格から後輩たちだけでなく、同級生からも慕われている。男子バスケ部に所属していた達也にとっては、なんでも気兼ねなく話せる頼りになる女子といったところだ。

「おはよう。結花の方こそ、なんでこんなに早いの?」

「部活引退して新学期が始まってから、毎朝七時に来て勉強してるけど? 朝に勉強した方が頭に入る気がするし、それに本番の試験だって午前中から始まるでしょ? この時間なら誰も来ないし、集中して勉強できるなって思ってさ。志望校考えるとまだまだ成績足りないんだよね」

舌をぺロッとだして苦笑いをしているが、結花は常に学年で三位以内に入るほど優秀だ。限りなく学年最下位に近い順位をキープしていた達也は、部活で毎日クタクタになるまで練習して帰るのに一体いつ勉強しているのだろうと、ずっと不思議に思っていた。だが、今日のように、きっといつも見えない部分でコツコツと努力していたのだろう。

「せっかく集中して勉強していたところなのにごめん」

「そんなことないよ。ちょうど区切りのいいところだったしさ。達也くんも勉強しに来たんでしょ? いっしょに勉強しようよ」

結花の言葉に達也もやる気がでてくる。だが、その前に……。

「ちょっと調べたいことがあるんだ」

「調べたいこと?」

「なあ結花、高校受験ガイドみたいな資料とか本とかってどこにある?」

結花が得意顔で答える。

「それなら入り口側の奥の棚がそうだよ。一番下の段の分厚いやつ」

「さっすが結花。サンキュー」

「まあね。でも何探すの? まだ受験校どこにするか悩んでる感じ?」

※本記事は、2012年5月刊行の書籍『アザユキ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。