外見からは到底、悪さをする植物には思えませんが、堤防を維持管理する側からすれば、とても厄介な植物です。

図1に示すように、セイヨウアブラナはダイコンの仲間で、その根もダイコンに似ており直根と呼ばれます。

 

したがって、セイヨウアブラナが堤防一面に生育している状態は何万本ものダイコンが堤防に突き刺さっていることと同じことになります。そして直根が腐ると土中に空洞が生じて、土壌が軟らかくなってしまいます。

つまりセイヨウアブラナが河川堤防に繁茂すると堤防の強度が低下して洪水時に決壊しやすくなるということです。

セイヨウアブラナやセイヨウカラシナのような広葉植物と対比されるのがシバと呼ばれる多年生のイネ科植物です。シバの根はダイコンと異なり、土壌深くまで縦横に広がる根茎とひげ根からできており、土壌を強く保持します。

このため日本の河川では、河川砂防技術基準と呼ばれる政令で堤防法面をシバで被覆することが義務付けられています。

セイヨウアブラナやセイヨウカラシナだけでなくセイタカアワダチソウやセイバンモロコシなどの雑草もシバの生育を衰退させることから、河川堤防では防除の対象になります。

河川堤防の他にも、どのような植物を防除の対象とすべきか判断に迷う場合があります。

それは私たちが休日に良く利用する公園の芝生です。堤防と同様に、公園にも芝が植えられており、短く斉一に刈り込まれた芝生にスミレやネジバナが生育していたとします。

どちらもシバ以外の植物ですから厳密な意味では防除の対象になりますが、スミレを防除しようとする人はあまり居ないと思います。可愛い花を咲かす上にシバの生育を大きく損ねないことから、たいていの場合、許容されることになります。

このように不特定多数の市民が利用する河川堤防や公園などでは、利用者によって植物に対する価値観が異なることから、どんな植物を防除の対象つまり雑草にするかが難しくなります。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『 雑草害~誰も気づいていない身近な雑草問題~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。