「お世話になります、お恥ずかしい。事故なんか起こしてしまって」

いつもの道なのに、急に飛び出して来たらよけるのは無理だとあの瞬間思ったはずだ。

「病院長先生、お父様が先ほど来られました」

「それより、相手の方は? 容態はどうですか?」

「重体ですが命に別状はないです。手術も成功しましたが、意識が戻らないと何とも」

看護師の顔が曇った。

「そうですか……家族の方にお詫びを」

「それは、病院長先生がされました。かかる医療費や補障も全額負担するということで」

言いにくい感じで看護師が続けた。

「ただ……大量出血だったので、血液が足りずに武史さんから少し頂きました。同じRHマイナスAB型でしたので。すみません」

「いいですよ、僕はただの骨折だから。当然です」

武史は早く自分がバイクではねた男性の顔を見たいと思った。

「動けるようになれば、すぐにお見舞いに行きたいと、家族の方に伝えてください」

「分かりました、また来ます」

看護師は病室を出て行った。武史は特別室でなく、二人部屋だったことに安堵した。

事故の加害者なのだから、逆に被害者よりも待遇がよかったら不信感を抱かれる。親父の考えそうなことだと納得した。

よかった、とりあえず相手は死亡していなかった。しかし、新たな疑念が頭をもたげる。血液型まで同じなのか。見間違えなのか、あの時自分そっくりの顔をしたあの男は誰なのだ。武史は早く被害者の男性が回復してほしいと念じた。それが一番肝心だ。

看護師や医師が全く同じ顔の二人が入院していることに気が付く前に、武史は自分が早くこの病院から転院することが一番だと思った。相手の意識が戻る前に髪の毛を入手してDNA検査をしたいと思った。動かない脚がもどかしかった。

自分が何者なのか、同じ顔の男がなぜ存在するのか、そしてなぜ出会ってしまったのか。白いカーテンの内側で目を閉じて武史は苦悩していた。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『双頭の鷲は啼いたか』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。