3.定常状態に達しても薬効が十分でない例

【1】パロキセチンなどの抗うつ薬

脳内の選択的セロトニン再取り込み阻害薬に分類される、うつ病に利用される薬になります。

脳内の神経をつなぐ部分にセロトニンという神経伝達物質が不足するとうつ病になるといわれています。抗うつ薬はセロトニンが標的の受容体へ到達する前に神経終末に再取り込みされるのを防ぎ、セロトニン不足を解消する薬です。この薬の半減期は約14時間で、1日1回服用します。

定常状態のあるなし式からは24時間÷14時間=1.7<3で定常状態のある薬になります。すると定常状態に達する時間を4.5半減期後とすると、63時間後(約3日後)になります。服用してから3日後には安定した抗うつ効果が期待できるという計算になるのですが、一般に抗うつ薬の効果判定は2週間以降とされています。

これは脳内での神経伝達物質が十分に蓄積されるのに必要な時間ともいわれています。定常状態になっても十分に薬効が発揮されないという例になります。

【2】リスペリドンなどの統合失調症治療薬

これらの薬も脳内にある神経伝達物質に関連する薬になります。統合失調症の原因は脳内ドパミンやセロトニンの作用過剰によるとされるので、これらの神経伝達物質の作用を抑える薬ですが、やはり効果判定には2~4週間を必要とするとされています。

定常状態になるにはリスペリドンの活性化体で約4日かかりますが、効果判定にはさらに日数が必要な薬になります。一方で、速効性の作用を期待して頓用でも用いられる少し不思議なタイプの薬です)。

薬自体の直接作用ではなく、間接的に関与する薬の場合はどうやらタイムラグが生じてしまうようです。

(5)まとめ 

科学的な根拠に基づく薬の大原則を押さえておき、現実には大原則に当てはまらない例外も多々あると思っておいた方がよいでしょう。薬の相手は千差万別の人間たちなのですから。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。