1) 薬は飲み始めてからいつ頃に効いてくるのか?

(4)何にでも例外はある話

2.定常状態のない薬でもすぐに効果が出ない例

●エプレレノンとベプリジル

ある研修会に参加していたとき、高血圧と心房細動を合併した患者さんにエプレレノン(1回50mgを1日2回)とベプリジル(1回100mgを1日2回)が追加された例が示され、定常状態の有無の観点からどのような服薬指導をすればよいかという問いかけがされました。これら2薬の投与間隔τ、半減期t1/2、τ/t1/2、定常状態の有無は表1のようになります。

写真を拡大 [表1]定常状態の有無

この研修会での正解は「エプレレノンは定常状態がないので飲んだ当日からすぐに効いてきますが、ベプリジルは定常状態になる頃、つまり2週間で安定した効果が期待できます」でした。ベプリジルは確かにそうかもしれませんが、エプレレノンはどうでしょうか?

エプレレノンの作用機序は腎臓の集合管のミネラルコルチコイド受容体に体内成分アルドステロンと拮抗して、アルドステロンの作用を弱めて効果を出す薬です。アルドステロンは直接Na再吸収やK分泌を行うのではなく、アルドステロンが受容体と結合し、その複合体がDNAレベルでアルドステロン誘導タンパク質(AIP)を発現して、そのAIPが効果を発揮します(ただし、アルドステロンを含むステロイドホルモンの作用の一部にはDNAを介さず直接作用するという報告もあります)。

いったん誘導されたAIPが体内からなくなる(つまり分解される)までには、ある一定時間を要します。エプレレノン投与でAIP合成を止めたとしても、残存AIPがある限り、エプレレノンの効果はすぐには出てこないという結果になります。

残念ながらAIPが分解されるまでどれだけの時間を要するかは分かりませんが、第三者の寿命の長さに効き目を依存するような薬はいくら定常状態がなくても、その日のうちに、すぐ効果が出るとは限らないと思われます。