エマニエル夫人が座っていたような大きな背もたれのある(ラタン)の椅子に腰を下ろしアイスティーを注文した。タバコに火を点け手持ち無沙汰にしていると、丈がにこにこしながら近づいてきた。

「先程はありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ四月まで親父が大変お世話になりまして」

「私も四月に赴任したばかりで、八若さんとは一週間くらいしか一緒じゃなかったんですよ。息子さんがこのホテルで働いていらっしゃることは聞いていました。八若さん、お元気ですか」

「今はサンパブロという田舎町でお袋とのんびり暮らしています。ちょっとお話させていただいてもいいですか」と言って丈は正嗣の前の椅子に座り、カラマンシーという金柑に似た果実を絞りセブンアップで割ったレモンスカッシュのようなドリンクを注文した。

サンパブロは八若の奥さん、つまり丈のお母さんの出身地だそうだ。マニラから南へ車で二時間弱、ラグナ州の州都で大きなココナッツのプランテーションがいくつもある。町にはレイク・サンパロックという美しい湖があり、その畔に土地を買い一年前に家を建て夫婦二人で暮らしているとのこと。

丈は正嗣の一歳年上の二五歳、空港とエルミタ地区の間に位置するパサイ市のバクラランという所に住んでいるそうだ。正嗣も大学卒業後GHに入社しシカゴで二年近く働き、その後マニラに転勤になったこれまでの経過などを話した。丈とは不思議と馬が合うようで何でも気軽に話せた。

気がついたら六時を回っていた。丈から一緒に食事に行かないかと誘われた。正嗣にとっても、最近は数ヵ所の和食レストランを順繰りに回って夕食を取っており、食事場所のレパートリーを広げる上でも好都合だった。